官途状

官途状について

官途状（かんどじょう）は、室町時代以降、日本の武士社会において特に重要な役割を果たした書状のひとつです。この文書は、主君が武功を挙げた家臣に対して特定の官職を名乗ることを許可するものであり、「官途書出」や「受領書出」とも呼ばれています。

歴史的背景

官途状の歴史は南北朝時代に遡ります。この時代には、北朝方の足利尊氏や南朝方の北畠顕信といった武将が、彼らの配下にいる武士の叙位任官を朝廷に取り次ぐことを確約する風習が見られました。この「官途書出」は、あくまで官位の斡旋を保証するものであり、そのため正式な叙位任官は除目に基づくものでした。

室町時代に入ると、状況は変化し、守護大名たちが家臣やその下に位置する者たちに対して、官職を私称することを許す慣習が生じました。この時期、私称された官職名は受領名と呼ばれ、官途状または官途書出によって授与されました。また、これに準じて仮名書出と呼ばれる、太郎・次郎といった輩行名と兵衛・衛門などの官名を組み合わせた名称が武士の名誉を示す名状として使用されるようになりました。

私称の特権

受領名はいわば朝廷の関与を受けない僭称であり、本来不適切ともされる慣行でした。しかし、室町時代の社会構造においては、武士が重要な地位を占め、守護大名の権力も強かったため、このような慣習は広く認められていました。特に戦国時代には、官途状は武功の報酬として頻繁に利用されました。

それにも関わらず、朝廷の公式な場でこの受領名を使用することははばかられ、官名を略称したり、他の表現に切り替えたりすることがしばしば行われました。このような流れから、正式な官途名を工夫して短縮する習慣が生まれ、武士の間で「百官名」や「東百官」といった名乗りが発展していきました。

江戸時代の影響

江戸時代になると、この官途状の発給慣習は一時衰退しました。しかし、以前に大名の地位を失ったものの、農村で名主として残った旧臣たちに対してこの書状が発給される慣習は続いていました。こうした官途状は、いずれも武士の栄典や社会的地位を示す重要なものとして受け継がれていきました。

参考文献

1. 小和田哲男 『今川義元はなぜ三河守か？-武士と官途受領名』 新人物往来社（2009年）
2. 国史大辞典編集委員会編『国史大辞典第1巻』 吉川弘文館（1979年）
3. 国史大辞典編集委員会編『国史大辞典第3巻』 吉川弘文館（1983年）
4. 新村出編『広辞苑 第六版』 岩波書店（2011年）
5. 松村明編『大辞林 第三版』 三省堂（2006年）

関連項目

• - 官位
• - 仮名 (通称)
• - 武家官位
• - 受領名
• - 百官名
• - 輩行名
• - 日本の官制

このように官途状は、日本の武士社会において、官職の名乗りや武功を示す重要な制度であり、その影響は長い歴史の中で継承されてきました。

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