宿根木

佐渡の秘宝、宿根木：北前船の記憶を今に伝える港町

新潟県佐渡市の最南端に位置する宿根木（しゅくねぎ）は、時が止まったかのような美しい港町です。ここは、江戸時代後期から明治時代初期にかけて北前船の寄港地として繁栄し、当時の面影を色濃く残す町並みが、国の重要伝統的建造物群保存地区として大切に保存されています。

宿根木の地理と町並み

宿根木は、たらい舟で有名な小木港の西に位置する小木海岸の入り江に面した集落です。保存地区は約28.5ヘクタールに及び、集落だけでなく、周囲の台地や隆起岩礁の海岸線も含まれています。地区内には106棟もの伝統的な建造物が残っており、そのほとんどが板張りの外壁を持つ2階建ての家屋です。

大通りに面した家々には庭や開口部が少なく、庇のない屋根が特徴的で、高い壁が連なる独特の景観を作り出しています。これは、他の日本の町並みではあまり見られない珍しい光景です。一部の家屋では、薄く割った板を重ねて石を置いた石置木羽葺屋根という独特の屋根が見られます。

家屋の外観は質素ですが、内部は北前船で財を成した船主たちの豪華な暮らしを偲ばせる意匠が凝らされています。現在、修復された民家「清九郎」と「金子屋」が一般公開されており、漆塗りの大黒柱や彫刻が施された仏壇、そして小木の伝統工芸品である船箪笥などを見学できます。船箪笥は、小判などの貴重品を隠すための「からくり構造」を備えています。「オマエ」と呼ばれる囲炉裏のある居間は2階まで吹き抜けになっており、梁の組み方には船大工ならではの技術が光ります。

集落には20以上の土蔵が残っていますが、これらは全て鞘と呼ばれる板壁で覆われています。これは、塩害から蔵を守ると同時に、盗難を防ぐために蔵の存在を隠す役割も果たしていたと考えられています。また、狭い路地の形状に合わせて建てられた通称「三角屋」と呼ばれる三角形の家屋も、船大工たちの技術と知恵を示す独特の建造物です。集落の周囲には竹垣が築かれ、周辺には竹林が広がっています。

江戸時代末期に世界地図を制作した蘭医学者の柴田収蔵の生家も、この宿根木にあります。

宿根木の歴史

宿根木の名が文献に登場するのは13世紀中頃で、中世から小木半島の要港として機能していました。近世に入り、西廻り航路が確立されると、小木港は幕府公認の北前船の寄港地として発展しました。宝暦年間に佐渡産品の島外移出が解禁されると、宿根木の廻船は日本各地を往来し、港は大いに賑わいました。

明治維新後、松前藩の入港制限が撤廃されると、蝦夷地との往来が盛んになり、佐渡の南端に位置する宿根木は寄港地としての重要性を増しました。船主や船乗り、船大工、鍛冶屋、桶屋など、廻船業に関わる多くの人々が移り住み、入り江の奥の狭い谷間に2階建ての家屋が密集する独特の景観が形成されました。

明治中期になると、長距離輸送の主流が鉄道に移行し、北前船は徐々に姿を消していきました。しかし、宿根木の町並みは火災や災害による損傷を免れ、そのままの姿で維持され続けました。1980年には地区住民による町並み保存対策調査が実施され、1990年には小木町の歴史的景観条例により伝統的建造物群保存地区に決定、翌1991年には重要伝統的建造物群保存地区として選定されました。これは、新潟県内で初の選定であり、2024年8月までは県内唯一の重伝建でした。

宿根木の文化と施設

集落には称光寺と白山神社があり、集落の全戸が称光寺の檀家となっています。また、佐渡ゆかりの民俗学者・宮本常一の提案により設立された佐渡国小木民俗博物館では、佐渡の民俗文化に触れることができます。

芝居小屋形式の集会所である宿根木公会堂は、住民の芝居や民話語りの場として利用されています。この公会堂は大正時代に建造され、現在の建物は1958年に建てられたものです。

宿根木の町並みを守り、その魅力を発信する「宿根木観光ボランティア部」は、2010年に手づくり郷土賞を受賞しています。

大正期以降、新田集落など台地部分では開田が進み、谷間から高台に移転する住民も増えました。現在公開されている民家「清九郎」「金子屋」も、元々は高台に転居した住民が残した家屋を公開しているものです。

宿根木へは、小木港から新潟交通佐渡路線バスに乗り、「宿根木」バス停で下車するのが便利です。小木港からはレンタサイクルも利用できます。

宿根木は、北前船の時代から時を超えて、私たちに貴重な歴史と文化を伝えてくれる、かけがえのない場所です。ぜひ一度、この美しい港町を訪れてみてください。

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