富士山の噴火史

富士山噴火史：70万年の歴史と巨大噴火の謎

富士山は日本最高峰の活火山であり、その雄大な姿は人々を魅了し続けてきました。しかし、その美しい山容の裏には、70万年にわたる激しい火山活動の歴史が隠されています。本稿では、最新の研究成果も踏まえつつ、富士山の噴火史を詳しく解説します。

新富士火山以前の活動：小御岳火山と古富士火山

富士山の周辺では、数百万年前から火山活動が盛んに行われていました。約70万年前、現在の富士山の位置に小御岳火山が誕生しました。当時、南東には愛鷹山も活発に活動しており、二つの火山が並立する壮大な光景が広がっていたと考えられます。小御岳火山の痕跡は、現在の富士山北斜面5合目付近で見ることができます。

小御岳火山が活動を休止した後、約10万年前に古富士火山が活動を再開しました。古富士火山は爆発的な噴火を繰り返し、大量のスコリア、火山灰、溶岩を噴出しました。その結果、標高3000mに達する巨大な山体を形成していきました。古富士火山の噴出物は、現在の富士山中腹にも広く分布しています。また、約2万年前には田貫湖岩屑なだれと呼ばれる大規模な山体崩壊を引き起こしました。

氷期には、山頂周辺の噴火によって雪や氷が溶け、大規模な融雪型火山泥流が発生しました。その代表的な例として、富士相模川泥流（約1万7000年前～1万4000年前）が挙げられます。これらの火山泥流は、富士山の北東麓に堆積しています。

古富士火山の噴火活動によって放出された大量の火山灰は、関東ローム層と呼ばれる褐色の土壌を形成しました。これは東京周辺に広く分布しており、箱根山から噴出した白い火山灰とは容易に区別できます。

新富士火山の活動：噴火のデパート

約1万年前から活動を始めた新富士火山は、溶岩流、火砕流、スコリア、火山灰、山体崩壊、側火山噴火など、多様な噴火様式を示すことから「噴火のデパート」と呼ばれています。新富士火山の活動は、大きく分けて山頂噴火と山腹噴火に分類できます。山頂噴火は爆発的な噴火を特徴とし、山腹噴火では大量の溶岩流が流れ出しました。

新富士火山の活動は、いくつかの時期に分けられます。

富士宮期（紀元前1万5000年頃～紀元前6000年頃）： 大量の玄武岩質溶岩を噴出し、その一部は駿河湾まで達しました。三島溶岩流や猿橋溶岩などがこの時代に形成されました。
須走-a期（紀元前6000年頃～紀元前3600年頃）： 活動は比較的低調でした。
須走-b期（紀元前3600年頃～紀元前1500年頃）： 現在の富士山のような円錐状の山体が形成されました。
須走-c期（紀元前1500年頃～紀元前300年頃）： 噴火様式が、溶岩流出から爆発的な噴火へと変化しました。大室山や片蓋山はこの時期に形成されました。
* 須走-d期（紀元前300年頃～現在）： 新富士火山の活動は現在まで続いています。

歴史時代の噴火：三大噴火とその他の活動

有史以降、富士山の山頂火口からは噴火は確認されていません。しかし、山腹からは幾度となく噴火が発生しました。中でも、延暦大噴火（800年～802年）、貞観大噴火（864年～866年）、宝永大噴火（1707年）の三大噴火は特に有名です。貞観大噴火は規模が最大であり、宝永大噴火は江戸に多大な被害をもたらしました。延暦大噴火は被害が大きかったものの、噴出量は他の二つの噴火に比べて少なかったと推定されています。

これらの三大噴火以外にも、古文書に記録されている噴火や、地質調査から判明した噴火活動があります。例えば、約3000年前には縄文時代後期に4回の爆発的な噴火が発生しました。また、約2900年前には大規模な山体崩壊が発生し、御殿場泥流を引き起こしました。

噴火様式とマグマの性質

貞観大噴火と宝永大噴火は、どちらも玄武岩質の噴出物を生じましたが、噴火様式は大きく異なっていました。貞観大噴火は溶岩流を主体とした噴火でしたが、宝永大噴火はプリニー式噴火と呼ばれる爆発的な噴火でした。この違いは、マグマの上昇速度や脱水・発泡・脱ガスの程度に起因すると考えられています。

富士山と地震の関係

宝永大噴火は宝永地震の49日後に発生しました。この他にも、南海トラフや相模トラフを震源とする地震、あるいは近隣地域を震源とする地震の前後には、富士山に何らかの活動が見られることが多く、地震と富士山の活動には関連性があると考えられています。

今後の富士山

宝永大噴火以降、富士山では大規模な噴火は発生していませんが、噴気活動や地震活動は現在も続いています。富士山は依然として活火山であり、将来的な噴火の可能性を常に考慮する必要があります。今後の研究によって、富士山の噴火メカニズムや噴火予測の精度が向上することが期待されます。

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