富貴寺

富貴寺（ふきじ）

富貴寺は、大分県豊後高田市田染蕗に位置する天台宗の寺院で、山号を蓮華山と称します。本尊は阿弥陀如来で、開基は仁聞と伝えられています。特に、富貴寺大堂は近畿地方以外では数少ない平安時代の建築物として知られ、1952年に国宝に指定されました。2013年には境内全体が史跡に指定され、その歴史的価値が改めて認められました。

歴史

富貴寺の創建に関する詳細は不明な点が多いですが、平安時代中期頃に宇佐神宮の神官の菩提寺として開かれたと考えられています。富貴寺は国東半島に点在する六郷山寺院の一つであり、これらの寺院は古くから山岳信仰の霊地として存在していました。奈良時代末から平安時代初期にかけて寺院の形態を整え、宇佐神宮の神宮寺である弥勒寺の傘下に入ったと推測されています。

12世紀前半には、六郷山寺院は中央の天台宗寺院との結びつきを強め、最終的には比叡山延暦寺に寄進されました。当時の記録によると、六郷山には65もの寺院があり、富貴寺はその一つとして西叡山高山寺の末寺でした。1147年の銘がある鬼神面が残っていることから、この頃には寺院としての形が整っていたと考えられます。13世紀初頭の古文書には、富貴寺が宇佐八幡大宮司家の祈願所であったと記されており、12世紀前半から中頃にかけて、同家によって創建されたと推定されています。現存する大堂は12世紀の建築で、天台宗寺院としては珍しく、浄土教の影響を強く受けています。富貴寺では神仏習合の信仰が行われており、宇佐神宮の祭神を祀る六所権現社も建立されていました。

天正時代には、キリシタン大名の大友宗麟による仏教寺院破壊の難を逃れ、大堂は破壊を免れました。かつては本坊と6つの坊で構成されていた富貴寺ですが、江戸時代中期には宗教活動を行うのは南之坊のみとなり、他の坊は百姓屋敷や水田に変わりました。大正時代まで大堂には鞘堂がありましたが、戦時中の爆撃で被害を受けています。

現在、富貴寺は大堂の隣に宿坊「旅庵蕗薹」を併設しており、参拝者は境内に宿泊できます。

文化財

国宝
富貴寺大堂：平安時代の建築様式を伝える貴重な遺構です。宝形造の屋根と行基葺きの瓦が特徴で、内部には仏壇が配置されています。小規模ながらも、九州に残る数少ない和様建築として、六郷山寺院の最盛期を偲ばせる存在です。また、旧棟木の部分も国宝に追加指定されており、大堂の歴史と構造を解明する上で重要な資料となっています。

重要文化財（国指定）
木造阿弥陀如来坐像：本尊で、平安時代に制作されたものです。
大堂壁画：板絵著色阿弥陀浄土図や四仏浄土図などが描かれており、平安時代の絵画を知る上で貴重な資料です。

史跡（国指定）
富貴寺境内：寺院の歴史的景観を維持しています。

その他の文化財
富貴寺笠塔婆：鎌倉時代中期の作とされる笠塔婆で、一部は別府市美術館に移設されています。
木造阿弥陀如来及び両脇侍像：大分県指定有形文化財です。
木造仮面：菩薩面と追儺面があり、追儺面は修正鬼会の鈴鬼の原型とも言われています。
富貴寺板碑：祐禅大徳の七回忌の板碑で、延文6年の銘があります。
富貴寺石殿：大分県指定有形文化財です。
石造地蔵菩薩坐像：大分県指定有形文化財です。

舞楽常行三昧の再興

2016年には、恵心僧都源信の1000年御遠忌を記念して、富貴寺大堂創建時に行われていたと考えられる舞楽常行三昧が再興されました。この舞楽は、富貴寺の歴史と密接に関わり、宇佐大宮司家が観想した平安時代の極楽浄土を表現しています。宇佐公通が浄土信仰を基盤に大堂を建立した際、極楽音声である雅楽を求め、宮中から公家を招いて雅楽組織を設立したとされています。舞楽常行三昧では、天台宗僧侶による常行三昧と南都楽所による舞楽が奉納され、富貴寺の文化的な価値が現代に継承されています。

交通

富貴寺へは、大分空港からタクシーで約40分、JR宇佐駅から車で約30分です。大分交通の定期観光バスや、路線バス、豊後高田市の市民乗合タクシーも利用できます。

富貴寺は、その歴史的、文化的価値から、多くの人々に愛され続けています。訪れる際には、その静謐な空間で、歴史の重みを感じてみてください。

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