小曽根乾堂

小曽根乾堂：幕末明治を彩った多才な長崎の人物

小曽根乾堂(こぞねけんどう、1828-1885)は、江戸時代後期から明治時代にかけて活躍した、稀代のマルチな才能を持つ人物でした。長崎に生まれ、実業家として、そして書家、画家、篆刻家として、その名を歴史に刻んでいます。明治政府から依頼された国璽・御璽の製作、坂本龍馬への経済的支援、さらには音楽や陶芸への造詣の深さなど、彼の多様な才能と業績は現代においても注目に値します。

貿易商の家に生まれ、豊かな教養を身につける

乾堂の出自は、貿易を営む長崎の豪商の家系です。祖先は武田勝頼の家臣と伝えられていますが、江戸初期に平戸から長崎に移住し、古物商や外国貿易を営み、出島の南蛮屋敷建設や眼鏡橋修復にも携わったとされています。裕福な家庭環境の中で育ち、父・六左衛門は文芸に造詣が深く、乾堂も幼い頃から書、画、詩、篆刻など、幅広い教養を身につける機会に恵まれました。

多彩な才能を開花させる

書道では春老谷や水野眉川に師事し、清国の来舶者からも隷書の技法を学びました。その卓越した書は、日清修好条規締結の際、全権大使・伊達宗城の随員として清国を訪れた際に、清国側の全権大使・李鴻章から高く評価され、「鎮鼎山房」の額を贈られるほどの腕前でした。

文人画においては鉄翁祖門に師事し、木下逸雲、三浦梧門らからも指導を受けました。花鳥画や山水画を得意とし、長崎の書画団体である長崎書画清壇会（後の長崎南画会）の継承と発展にも大きく貢献しました。若き日の富岡鉄斎が乾堂の所蔵する書画に感銘を受け、文人画家を志したという逸話も残っています。

篆刻では長崎派を代表する大城石農に師事し、17歳で既に名士からの依頼を受けて印を刻むなど、類まれな才能を発揮しました。21歳で自刻印の印譜を刊行し、篠崎小竹、広瀬淡窓、草場佩川らから高い評価を得ています。

音楽においては、月琴を嗜み、明清楽を学びました。これは中国伝来の伝統音楽であり、乾堂とその一門は東京の離宮で御前演奏を行うほどの腕前でした。「小曽根明清楽」と呼ばれ、長崎から各地へと伝承され、現在では長崎県の無形文化財に指定されています。

さらに、乾堂は名陶亀山焼の発展にも尽力し、自らも絵付けを行うなど、幅広い分野で活躍しました。亀山焼廃窯後は、長男に再興を託し、小曽根焼（鼎山焼）として明治32年まで続きました。

実業家としての活躍と坂本龍馬との関わり

乾堂は文人としての活動にとどまらず、実業家としても成功を収めました。松平春嶽の援助を受け、港湾整備事業を行い、貿易の発展に貢献しました。

また、坂本龍馬や勝海舟とも深く関わっており、龍馬の亀山社中に出資し、その本拠地となる場所の斡旋も行いました。海援隊の本部も乾堂邸に置かれたと言われています。龍馬の妻であるお龍に月琴を教えたのは、乾堂の長女と伝えられています。

晩年とその後

晩年には、小曽根小学校の創立、寺院や神社の創建、桟橋の架設、高島炭鉱の三菱への譲渡斡旋など、地域社会の発展にも貢献しました。59歳で亡くなり、その功績は後世に語り継がれています。

小曽根乾堂：多才な人物像

小曽根乾堂は、単なる書家や画家、篆刻家という枠を超えた、稀有な存在でした。卓越した芸術的才能に加え、優れた経営手腕、そして人脈を駆使した実業家としての側面も持ち合わせていたのです。坂本龍馬という時代を象徴する人物との深い繋がりも、彼の魅力の一つと言えるでしょう。国璽・御璽の製作という国家的プロジェクトへの関与も、彼の生涯における重要な足跡です。

彼の残した作品や功績は、幕末明治期の激動の時代を生き抜いた、一人の人物の多様な才能と生き様を物語っています。そして、その功績は、現在もなお、私たちに多くの示唆を与え続けているのです。

もう一度検索