小林為太郎

小林為太郎：戦後日本の民主主義と人権を支えた弁護士

小林為太郎（1908年-1985年）は、昭和期を代表する弁護士の一人であり、その活動は戦後日本の民主主義と人権擁護に大きな足跡を残しました。高知県土佐清水市出身。旧姓は上岡。元タレント漫才師の上岡龍太郎は長男、映画監督の小林聖太郎は孫にあたるという華麗なる一族でもあります。

高等小学校卒業後、村の郵便局に勤務する傍ら、サツマイモ栽培や海産物の採取、イカ釣りなどを行いながら、独学で小学校教員資格試験を3度も受験するも、合格には至りませんでした。18歳で高知市へ移住し、キリスト教系団体の『学生労働会』で牛乳配達をしながら勉学に励みます。この頃、幸徳秋水の刑死や大正デモクラシーの影響を受け、マルクス主義に傾倒していくこととなります。

高知県立城北中学（現・高知県立高知小津高等学校）に入学。在学中はマルクス主義の影響をますます強め、『学生労働会』の宗教活動に反発し、追放されるという経験もしました。その後、高知高等学校を経て、京都帝国大学法学部に進学します。大学時代には、滝川事件を目の当たりにし、学生集会で演説を行うなど、活発な活動を行っていました。この頃、弁護士になることを決意します。

1936年、京都帝国大学卒業。就職活動は難航し、岐阜市役所や京都市の小学校代用教員を経験。その後、宮崎県在住の生糸問屋の娘・小林タマと結婚し、小林家に養子入りします。京都帝国大学大学院に進学し、司法試験の勉強に励みました。1939年には臨時召集を受けましたが、体重超過のため即日帰京という珍しい経歴も持っています。

1940年、司法試験に合格。大阪弁護士会に所属し、弁護士としてのキャリアをスタートさせます。1942年には長男・龍太郎が誕生。太平洋戦争の激化に伴い、家族を宮崎に疎開させ、自身は大阪、京都と弁護士登録地を変更しながら活動しました。終戦後、日本共産党から入党の誘いを受けますが、最初はこれを断り、後に党に入党することとなります。

1946年の第22回衆議院議員総選挙には、日本共産党公認候補として立候補しますが、落選。翌年の第23回衆議院議員総選挙にも立候補するも、落選しました。選挙活動中には米軍に抑留されるという経験もしています。

政治活動から身を引いた後も、小林為太郎弁護士は、能勢克男弁護士らとともに、京都府下を中心に、市民・労働者・学生・農民・在日朝鮮人などに対する弾圧や人権抑圧事件を数多く担当。京都における民主的法曹の中心的役割を果たしました。弁護活動においては、交通費や食費を自弁で賄うことも厭わず、依頼者への厳しさも持ち合わせていました。

1954年には妻のタマを亡くすという悲しみを経験。1963年には自由法曹団京都支部結成の呼びかけ人の一人となり、同団体の基礎を築きます。また、随筆や短歌なども発表しています。1985年、自宅でテレビを見ながら亡くなりました。最後の言葉は「朝潮が勝った」だったそうです。

小林為太郎弁護士が担当した事件は多岐に渡り、中京税務署前事件、上京税務署事件、反米ビラ・反戦ビラに対する占領軍軍事裁判、第二日赤争議事件、ウトロ軍事予算反対事件など、社会問題と深く関わる重要な事件が数多く含まれています。これらの事件を通して、戦後日本の民主主義と人権擁護に多大な貢献を果たしたと言えるでしょう。彼の生涯は、正義を追求し続けた弁護士の生き様を象徴するものです。

もう一度検索