小柳常吉 (大関)

小柳 常吉

小柳 常吉（こやなぎ つねきち）は、江戸時代後期の文化14年（1817年）8月に上総国市原郡上高根村（現在の千葉県市原市上高根）で生まれた大相撲力士です。本名は高石 桂治といい、武隈部屋、雷部屋を経て阿武松部屋に所属しました。その特徴的なアンコ型の体格で知られ、最高位は大関でした。

力士としての歩み

天保6年（1835年）1月場所、当時の横綱であった阿武松緑之助に弟子入りした高石は、緑松 慶治郎の名で二段目（現在の幕下・十両に相当）に付け出しでデビューしました。しかし、最初の場所は4連敗、翌10月場所も2敗と、力士人生の始まりは厳しいものでした。天保7年（1836年）1月場所からは緑松 常吉と改名しましたが、それでも星は伸び悩み、連敗が続きました。ようやく初白星を挙げたのは、改名後の場所の6日目のことでした。

負け越しを重ねる中でも、彼の番付は次第に上昇していきました。これは、師匠である阿武松緑之助の強い影響力に加え、その並外れた肥満体型が将来有望であると広く認められていたためとされています。

天保8年（1837年）10月場所、二段目6枚目に番付を上げた際に、師匠の前のしこ名である小柳 常吉を名乗るようになります。この場所で6勝4敗と、初めての勝ち越しを収め、徐々に実力をつけていきました。天保11年（1840年）2月には新入幕を果たし、天保14年（1843年）11月場所では7勝1分1休という好成績を収め、場所後の番付編成会議によって優勝に相当すると認められるなど、幕内でも活躍を見せました。しかし、入幕以降は好成績を残しても、初土俵の頃とは逆に番付の昇進があまり早くない時期が続きました。これは、当時の三役上位に剣山や鏡岩といった実力者が長期間在位していたことも影響したと考えられています。天保15年（1844年）10月には阿波藩の抱え力士となりましたが、これは1場所のみで、その後は大名抱えにはなりませんでした。

弘化2年（1845年）11月場所で小結に昇進。しかし、前述の三役上位の壁もあり、小結の地位に9場所連続で留まることになります。嘉永3年（1850年）3月場所からは関脇に昇進し、これも5場所連続で務めました。そして嘉永5年（1852年）11月場所、ついに大関へと昇進します。しかし、この頃には既に力士としてのピークを過ぎており、大関としては7場所務めた後、安政3年（1856年）1月場所限りで土俵を去り、引退を決意しました。

引退後は年寄名跡の2代阿武松常吉を襲名しましたが、安政5年（1858年）3月23日（旧暦）、数え年42歳でこの世を去りました。

人物像と取り口

小柳は身長170cm、体重150kgという堂々たるアンコ型の体格でしたが、見た目に反して動きは非常に俊敏でした。しかし、前かがみの体勢を長く保つことを苦手としていたようです。また、仕切りを急ぐ傾向があったため、相手力士の作戦に乗せられてしまう場面も少なくありませんでした。残された錦絵からは、闘志あふれる表情で、特に眼光鋭く描かれているものが多く見られます。対戦相手の中では、寶川石五郎（最高位・西前頭筆頭）を苦手としており、3度の敗北を喫しています。

ペリー来航時の逸話

嘉永7年（1854年）、ペリー提督率いるアメリカ艦隊が再び浦賀に来航した際、一行に日本の相撲を披露する機会が設けられました。同年2月24日、横浜の地で、力士たちの土俵入りや稽古相撲が公開されました。このとき、小柳は日本の力士の怪力ぶりを示すデモンストレーションとして、五斗俵を持ち上げて歩いてみせました。さらに、力自慢だというアメリカ人水兵3人を同時に相手にするという驚くべきパフォーマンスを行います。彼は水兵の一人を片手で差し上げ、もう一人を小脇に抱え、残る一人を足下に踏みつけるという離れ業を披露し、観覧していた人々、特にアメリカ人たちの度肝を抜いたと伝えられています。

成績

小柳 常吉の幕内での出場場所は32場所です。その通算成績は131勝47敗28分6預1無59休という記録が残っています。また、場所後の番付編成で評価される優勝に相当する成績を5回記録しています。

※当時の大相撲において、現在の十両にあたる地位は存在せず、幕内のすぐ下の階級は「幕下」と呼ばれていました。番付表の上から二段目に位置していたため、現代ではこの時代の幕下を特に「二段目」と呼んで区別することがあります。

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