小歩危ダム計画

小歩危ダム計画とは

小歩危ダム計画は、徳島県三好市（旧三好郡山城町）において、かつて吉野川本流中流部での建設が検討されたダム計画です。この計画は、吉野川総合開発計画に基づき、建設省四国地方建設局（現在の国土交通省四国地方整備局）と電源開発の連携によって進められました。当初の目標は、高さ126メートル、総貯水容量3億750万トンの四国地方最大の多目的ダムの建設だった。しかし、後に規模が縮小し、名勝である大歩危・小歩危が水没する可能性が浮上したことから住民の強い反対に直面し、最終的に計画は中止となりました。

計画の背景

太平洋戦争後、日本全体が水害の影響を受けていました。特に四国地方では、台風や梅雨前線による豪雨が続き、大きな被害をもたらしていました。この状況を受けて、内閣経済安定本部の主導の下、洪水への対策として河川の総合的な開発計画が策定されました。アメリカのテネシー川流域開発公社（TVA）の成功例を参考にし、日本各地の河川において多目的ダムの建設が目指されました。

1949年に始まった吉野川改訂改修計画では、治水と利水を意識した多目的ダムの建設が進められ、1950年には吉野川総合開発計画が策定されました。様々な案が上がり、その中で小歩危ダムも計画に含まれました。

小歩危ダムの役割と目的

経済安定本部の原案によれば、小歩危ダムは洪水調節、農業用水の供給、そして水力発電を主な目的としていました。高知県長岡郡本山町の上流端まで湛水面が及び、洪水調節では毎秒8,000トンの洪水量を毎秒3,050トン削減する計画でした。また、農業用水供給に関しては、近接する岩戸ダムとの連絡水路を設けて水を導く予定でした。

その後の修正案では、ダムの規模や計画内容が次第に変化していきました。特に徳島県の反対心が強まり、計画は進展を見せませんでした。徳島県は吉野川の水源に対して持つ慣行水利権を重視し、分水計画にも対抗意識を持っていました。

反対運動と最終的な中止

小歩危ダムの計画に対しては、地元住民による反対運動が活発になりました。特に、大歩危・小歩危が水没する恐れがあり、自然環境保護の観点から多くの支持が集まりました。これに伴い、総合開発審議会における合意形成が難航しました。最終的には、四国電力が審議会から離脱し、自ら水力発電事業に着手する事態に陥りました。このように、計画は膠着を続け、1971年に小歩危ダムの計画は正式に中止されることが決定しました。

その結果、早明浦ダムを利用した開発が進む一方で、小歩危ダムには代わる案を迎える余地は残されませんでした。この事業は、当時の環境問題や社会の価値観の変化をも象徴するケースとなり、今日も大歩危・小歩危の素晴らしい自然環境が保護されています。

もう一度検索