小田原衆所領役帳

小田原衆所領役帳について

『小田原衆所領役帳』（おだわらしゅうしょりょうやくちょう）は、戦国時代の相模国を拠点とした大名、後北条氏の当主である北条氏康が、一族や家臣たちの諸役賦課の基準となる役高を記録した分限帳です。原本は現存しておらず、江戸時代に作成された写本が知られています。この役帳は、氏康の時代である永禄2年（1559年）の奥書を持ち、後北条氏が永正17年（1520年）から弘治元年（1555年）にかけて実施した数度の検地に基づいて作成されたと考えられています。

概要

この分限帳には、小田原衆をはじめ、馬廻衆、玉縄衆など、家臣団が12の集団に分けられ、総勢560人の役高が貫文で記載されています。また、各家臣が所有する郷村名も併記されています。ただし、成立後に後北条氏の支配下に入った鉢形城や岩付城などの支城に属する家臣団は記載されていません。

『小田原衆所領役帳』は、後北条氏の軍役や知行役といった諸役賦課体制を研究する上で、非常に重要な史料となっています。

内容

『小田原衆所領役帳』には、以下の15の集団に分けられた人々が記録されています。

1. 当主直属の人々
小田原衆（小田原城に所属する家臣団）
足軽衆（足軽や遊撃の役割を担う）
御馬廻衆（当主直属の旗本や吏僚を含む）

2. 支城に属する者
玉縄衆（玉縄城に所属、北条綱成が率いる）
江戸衆（江戸城に所属）
河越衆（河越城に所属）
松山衆（松山城に所属）
伊豆衆（韮山城に所属）
津久井衆（津久井城に所属）

3. 他国衆
従属した国衆（北条氏照の大石氏の由井衆を含む）

4. 家臣団以外
職人衆（番匠や各種職人など）
社領（神社領）
寺領（寺院領）
客分衆（京都伊勢氏など）
御一家衆（北条氏の一門で、古河公方足利義氏、北条幻庵、三浦衆、北条氏堯、小机衆などから構成）

御一家衆について

御一家衆は、北条氏の一門であり、氏康を補佐する特別な立場にあったとされています。玉縄衆、三浦衆、小机衆は元々、氏康の弟である北条為昌の管轄下にありましたが、為昌の死後、玉縄衆は北条綱成が継ぎました。三浦衆については『役帳』作成当時、まだ後任が決定していませんでした。

小山田氏の記載

『小田原衆所領役帳』には、甲斐武田氏の家臣である小山田氏の人物も「他国衆」として記載されています。小山田氏は武蔵小山田荘で419貫812文の知行を与えられた「小山田弥三郎」と、伊豆国内で381貫100文の知行を与えられた「小山田弥五郎」が記されており、それぞれ小山田信有（弥三郎）と小山田信茂に比定されています。

小山田氏は武田氏と後北条氏の同盟関係（甲相同盟）において外交の取次を務めていました。小山田氏が後北条氏の分限帳に記載されている理由は、後北条氏が小山田氏を味方に引き込むために知行を与えたとする説、後北条氏が伝領の由緒を確認しただけで知行の実態は無かったとする説、小山田氏が武田・北条両氏に両属していたとする説など、様々な見解があります。また、『役帳』には小山田氏の他に飯富左京亮や向山氏など、後北条氏との取次を務めた武田家臣の名が見られることから、これらの知行は取次への給与であったとする説もあります。

まとめ

『小田原衆所領役帳』は、後北条氏の家臣団の構成や知行の実態を理解する上で非常に重要な史料です。この役帳を通じて、当時の軍事体制や社会構造の一端を垣間見ることができます。

参考文献

佐脇栄智『小田原衆所領役帳（戦国遺文後北条氏編別冊）』東京堂出版、1998年、ISBN 449030546X
* 丸島和洋『中世武士選書19 郡内小山田氏 武田二十四将の系譜』戎光祥出版、2013年

もう一度検索