尾太岳

尾太岳（おっぷだけ）

概要

尾太岳は、白神山地にある標高1083mの山です。山頂には三等三角点が設置されており、青森県西目屋村の美山湖から南へ約8kmの地点に位置しています。白神山地の中でも、その尖った山頂が特徴的で、「白神山地のマッターホルン」と称されることもあります。

名称の由来

尾太岳の名前の由来については、いくつかの説があります。

アイヌ語説：江戸時代の探検家、菅江真澄は、著書の中で尾太岳をアイヌ語由来の地名である可能性を指摘しています。
地形説：「尾根が太い」ことに由来するという説もあります。

また、江戸時代には、津軽藩によって一時的に「乙富山」と改名させられたこともありましたが、この名称は定着しませんでした。

地勢

尾太岳は、白神山地の他の山々に比べて山容が特徴的です。南には東西に伸びる1000m級の稜線があり、尾太岳はその稜線から北へ伸びる支稜線上に位置しています。この支稜線上には、尾太岳の他に薬師森や弁天森などのピークがあります。

西斜面は比較的緩やかで、大沢川の源流に沿って崖が続いています。一方、東側は陣岳との間に湯の沢川が深いV字谷を形成しており、崩壊地形や岩の露出した急斜面が目立ちます。山体は主に凝灰岩で構成されていますが、安山岩や流紋岩の貫入も見られます。これらの貫入部には鉱脈が分布しており、谷底には尾太鉱山の入口がありました。

尾太岳の西を流れる大沢川と東を流れる湯ノ沢川は、いずれも北流し、美山湖（目屋ダム）で岩木川に合流しています。湯の沢川沿いには県道317号線が通っており、南へ進むと釣瓶落峠を経て秋田県藤里町へと至ります。

植生

尾太岳の植生は、白神山地の他の地域とは異なり、8合目から9合目にかけてコメツガやキタゴヨウマツといった針葉樹林帯が広がっています。白神山地は通常、ブナを代表とする落葉広葉樹林帯が広がっていますが、尾太岳では独特の植生を見ることができます。

かつては、尾太鉱山の燃料として木材が伐採されていましたが、現在は「尾太岳県自然環境保全地域」としてブナ林が保護されています。

登山

尾太岳への登山道は整備されておらず、かつての鉱山道を利用する必要があります。現在でも青森県が鉱山の廃水処理を行っており、入山には管理事務所の許可が必要です。登山道は崩壊している箇所も多く、難易度が高いと言えます。急な斜面を登る必要があり、残雪期であれば3時間強で山頂に到達できます。

人との関わり

尾太岳一帯は、かつてマタギや炭焼きなどの山で暮らす人々によって、独自の文化が育まれてきました。この地域は「津軽の秘境」とも呼ばれ、民族学的な観点からも注目されています。地元住民の伝承によると、尾太岳の山頂付近は「御殿」と呼ばれる聖地であり、サルを祀る石碑が設置されていました。

尾太岳の斜面に見られる雪形は「アシマゲッコ」（白馬の意味）と呼ばれ、農作業の目安とされていました。また、尾太岳の南方にある尾根は、「ジョンコナガレ」と呼ばれ、秋田の女性が下駄で越えたという逸話が残されています。

江戸時代には、菅江真澄がこの地を訪れ、尾太鉱山などの様子を著作に記録しています。

尾太鉱山

尾太岳とその北に位置する寒沢岳一帯には、金属鉱床が分布しています。古代から採掘が行われ、東大寺の大仏にも使われたという伝説がありますが、確かな証拠はありません。

尾太鉱山は江戸時代に銀山や銅山として繁栄し、尾太岳は鉱石精錬に必要な木材の供給地となりました。当時は、弘前藩内で弘前、青森に次ぐ人口を抱え、「町」が形成されていました。また、罪人が鉱山労働者として使役されたり、隠れキリシタンが集住していたという伝承も残っています。

昭和時代にも尾太鉱山は繁栄しましたが、石油危機の影響で閉山に至りました。現在では、半貴石のロードクロサイトの産地「Oppu mine」として、世界の鉱物収集家の間で知られています。

しかし、鉱山廃水による川の汚染は深刻で、湯の沢川では生物が死滅し、その影響は下流の岩木川にも及んでいます。現在も、青森県による廃水処理と鉱滓ダムの整備が続けられています。

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