尾太鉱山

尾太鉱山の概要

尾太鉱山は、青森県中津軽郡西目屋村に位置していた金属鉱山です。白神山地の東部に位置し、岩木川上流の険しい谷にありました。近世には銀と銅の採掘で栄え、江戸時代末期には津軽藩内で弘前、青森に次ぐ人口を擁するほどの賑わいを見せていました。近代に入ると、黄鉄鉱、黄銅鉱、方[[鉛鉱]]、閃亜鉛鉱などの豊富な鉱物資源を産出し、高度成長期には日本を代表する金属鉱山の一つとして名を馳せました。しかし、1970年代の石油危機による不振のため、1978年に閉山しました。鉱物収集家の間では、菱マンガン鉱（ロードクロサイト）の産地「Oppu mine」として世界的に知られています。

地理と地質

尾太鉱山は、白神山地の東部、尾太岳の中腹に位置しています。この地域は、岩木川の上流にあたり、目屋ダムによって形成された美山湖から、さらに上流へと遡った場所に位置しています。鉱山は、湯ノ沢川が流れる険しい谷に広がっており、周辺には尾太岳や陣岳などの山々がそびえ立っています。

鉱脈が存在する地層は、新第三紀に形成されたもので、その下の基盤はホルンフェルスや変質砂岩で構成されています。この基盤の上に、中新世に形成された厚さ約2200mもの様々な地層が積み重なっており、これらの地層は火成作用による変成を受けています。主要な鉱脈は尾太層と尾太岳層に存在し、特に尾太層は安山岩、石英安山岩質の凝灰岩、火山礫凝灰岩などで構成されています。鉱脈の成因は、近隣の火山活動の影響による熱水鉱床であると考えられていますが、正確な解明には至っていません。

歴史

尾太鉱山の歴史は古く、平安初期の807年に開山したという伝承がありますが、具体的な史料は残っていません。17世紀以降の記録によると、1650年に銀の採掘が始まり、その後、1670年代には本格的な銀山として発展しました。この時期には、大阪から「南蛮鉸り」という精錬技法が導入され、銀の産出量が大幅に増加しました。最盛期には、鉱山地区は「町」と呼べるほど賑わい、多くの鉱夫や商人、その家族が暮らしていました。しかし、銀鉱脈を掘り尽くすと湧水が激しくなり、銀山としての価値は急速に失われました。

18世紀には、銅山の開発が本格化し、尾太鉱山は再び隆盛を迎えました。特に1734年頃には、排水に成功したことで年間約440トンもの銅を産出するようになり、弘前藩の重要な財源となりました。尾太の人口は8000人に達し、藩内でも有数の規模を誇りました。しかし、銅の産出量が減少するとともに、湧水問題も深刻化し、19世紀初頭には衰退の一途を辿りました。

明治維新後、鉱山は一時放棄されましたが、1952年に三菱金属鉱業によって買収され、近代的な開発が始まりました。1971年には最盛期を迎え、銅、鉛、亜鉛、硫化鉄などを大量に産出する日本有数の金属鉱山となりました。しかし、1973年のオイルショックの影響で経営は悪化し、1978年に閉山に至りました。

地下選鉱場と閉山後の状況

尾太鉱山では、地形的な制約から、坑道内で鉱石の粉砕と選鉱を行い、水で坑道入口まで運ぶという独自の選鉱方法が採用されていました。これは、山形県の八谷鉱山で確立されていた技術で、効率的な経営に貢献しました。しかし、1978年に閉山した後、鉱山地区は無人となり、西目屋村の人口も大幅に減少しました。

閉山後も、鉱山からの排水による水質汚染が深刻な問題となり、湯ノ沢川の水質は著しく悪化しました。青森県は、鉱滓ダムを建設し、汚染水の処理を行っていますが、現在でも、事故による汚染水の流出が度々発生しています。

菱マンガン鉱

尾太鉱山は、菱マンガン鉱（ロードクロサイト）の産地としても世界的に知られています。特に尾太鉱山産の菱マンガン鉱は、粒状・ブドウ状・団塊状で産出されることが特徴で、その美しいローズピンク色は、鉱物収集家の間で非常に人気があります。閉山後に坑道内で発見されたマンガン団塊は、バクテリアの活動によって生成されたものと考えられています。

逸話

尾太鉱山には、開山に関する伝説や、高度成長期の隆盛を物語る逸話が数多く残されています。開山伝説では、奈良時代に尾太鉱山の銅が奈良の大仏の造営に用いられたという話や、猿が握り飯を奪ったことが鉱山発見につながったという話が伝えられています。また、高度成長期には、鉱山労働者が高収入を得ていたことや、鉱山地区の繁栄を示すエピソードが数多く伝えられています。

参考文献

『日本歴史地名大系2 青森県の地名』,平凡社,1982
『角川日本地名大辞典2 青森県』,角川書店,1985
『青森県百科事典』,東奥日報社,1981
『津軽白神山がたり』,根深誠,つり人社,2000
* 『日本の金銀山遺跡』,萩原三雄（編）,高志書院,2013

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