尾澤主一

尾澤主一（おざわ しゅいち）

概要

尾澤主一は、1858年に武蔵国（現在の東京都）で生まれた日本の医師、医学者であり、特に小児科学を専門としていました。東京大学医学部を卒業後、帝国大学医科大学（現在の東京大学医学部）で教鞭を執り、後進の育成に尽力しました。また、ドイツに留学し、西洋の進んだ医学を学び、その知識を日本に紹介することにも貢献しました。カール・シュローダーの著作の翻訳にも携わり、日本の医学の発展に大きく貢献しましたが、帰国途上で病に倒れ、志半ばで生涯を閉じました。

来歴

生い立ち

1858年（安政年間）に武蔵国で生まれ、幼少期は江戸府内で過ごしました。生家は佐賀県にルーツを持つ陣ノ内家でしたが、後に東京府の尾澤家の養子となり、尾澤姓を名乗るようになりました。明治維新後の新しい時代において、医学で身を立てようと志し、官立大学である東京大学医学部に入学しました。1883年（明治16年）に東京大学を卒業し、医学士の学位を取得しました。同級生には、河本重次郎、北里柴三郎など、後に日本の医学界を担う人材が多数いました。

大学卒業後、尾澤家の娘と結婚し、正式に婿養子となりました。結婚後、東京府牛込区の邸宅に同級生を招き、祝宴を催したと伝えられています。

医学者としての活動

大学卒業後は、内科医として活動するとともに、医学者としても研究に励みました。母校である東京大学医学部が帝国大学医科大学に改組されると、小児科を担当しました。同級生の河本重次郎が外科を担当しており、宿直の際には互いに議論を交わしたという逸話が残っています。より深く医学を学びたいという思いから、帝国大学を辞してドイツ留学を決意しました。

1888年（明治21年）4月、ドイツに留学し、最新の内科学を研究しました。当時のドイツは、フリードリヒ3世帝の即位直後であり、激動の時代でした。ベルリンに滞在し、医学を学びましたが、体調を崩し、肺炎と診断されたため、帰国を決意しました。しかし、1889年（明治22年）6月21日、帰国途上の上海にて客死しました。

研究

尾澤の専門は医学、特に小児科学でした。研究活動に加え、西洋医学の知識を日本に紹介するため、医学書の翻訳にも力を注ぎました。特に、カール・シュローダーの著書『朱氏産科學』の翻訳は、石黒宇宙治、浦嶋堅吉らと共同で行い、日本の産科学の発展に大きく貢献しました。この翻訳書は、上下巻で構成され、下巻がさらに「坤」と「乾」に分けられるほどの大部なものでした。

顕彰

尾澤主一の墓は、明治時代の医家が多数眠る染井霊園にあります。墓石には「醫學士尾澤主一之墓」と刻まれており、その功績を今に伝えています。また、近くには薬種商の尾澤良甫を顕彰する石碑も建てられています。

略歴

1858年 - 武蔵国にて誕生。
1883年 - 東京大学医学部卒業。
1888年 - ドイツ国に留学。
1889年 - 上海にて死去。

著作

翻訳

石黑宇宙治・尾澤主一・浦嶋堅吉飜譯『朱氏産科學』上巻、嶋村利助・同支店、1886年。
石黑宇宙治・尾澤主一・浦嶋堅吉飜譯『朱氏産科學』下巻乾、嶋村利助・同支店、1887年。
石黑宇宙治・尾澤主一・浦嶋堅吉飜譯『朱氏産科學』下巻坤、嶋村利助・同支店・南江堂、1888年。

講演録

尾澤主一講述、瀨尾昌索筆記『小児科學』瀨尾昌索、1892年。

関連人物

石黒忠悳
尾澤良甫
北里柴三郎
隈川宗雄
河本重次郎
森鷗外

関連項目

医学
小児科学
内科学
産科学
東京大学 (1877-1886)
ドイツ帝国

参考文献

「醫學士尾澤主一氏の訃音」『中外醫事新報』223号、中外醫事新報社、1889年7月、53頁。
石黑忠悳著『石黑忠悳懷舊九十年』博文館、1936年。
山崎光夫著『明治二十一年六月三日――鷗外「ベルリン写真」の謎を解く』講談社、2012年。ISBN 978-4-06-217719-1

外部リンク

Ostasienabteilung der Staatsbibliothek zu Berlin, Lexikon Japans Studierende - 明治の日本人留学生を紹介するベルリン州立図書館東アジア部のページ

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