尾藤二洲

尾藤二洲：寛政の三博士の一人、頼山陽の叔父

尾藤二洲（びとう じしゅう、1745年-1814年）は、江戸時代後期を代表する儒学者の一人です。伊予国川之江（現在の愛媛県四国中央市）に生まれ、幼少期から学問に励みました。足が悪かったため、船頭である家業を継ぐことができず、学問の道へ進むことになります。

二洲は、高津東白に句読を学び、その後、宇田川楊軒、藤村九皐、合田求吾らに師事しました。24歳からは大阪に出て、片山北海の門下に入り、頼春水兄弟、中井竹山兄弟、古賀精里らと共に学びました。復古学を究め、1791年には昌平黌の教官となり、寛政異学の禁後における儒学教育を指導する立場となりました。

二洲は、陶淵明や白居易を愛し、詩作にも才能を発揮しました。その詩風は、唐詩を規範としながらも、宋詩の新鮮な感覚を取り入れるという独自の境地を開拓したと評されています。また、その性格は「恬淡簡易」と評され、世俗を嫌い、学問に没頭する生活を送りました。

特に、甥にあたる頼山陽とは深く親交があり、歴史談義に熱中した逸話も伝えられています。三博士の中では最も詩の才能に秀でており、自然体で詩を創作しました。唐詩を理想としつつ、宋詩の良い点も取り入れ、独自の詩風を確立しました。しかし、宋詩の模倣に陥ることなく、独自の詩境を追求した点は特筆に値します。二洲の詩作は、世俗を避ける彼の内面と深く結びついており、その静謐な世界観を反映しています。

二洲の門下からは、長野豊山、近藤篤山、越智高洲、筒井政憲など多くの優秀な弟子が輩出しました。冢田大峯が異学の禁に反対する声明を出した際、二洲の門下生にも動揺が広がったことから、二洲自身も権力による学問の統一を嫌っていたと推察されます。

二洲の著作には、『論孟衍旨』『学庸衍旨』『正学指掌』『称謂私言』『国学指要』などがあり、その内容は儒学の様々な分野を網羅しています。また、青年時代から読書や雑談の際に思いついたことを書き留めて整理した『素餐録』『静寄余筆』『冬読書余』なども貴重な記録となっています。これらの著作は、二洲の博覧強記と鋭い洞察力を示すものであり、後世の儒学研究に多大な影響を与えました。

大正4年（1915年）には従四位を追贈され、その功績は今日まで高く評価されています。彼の生涯と業績は、江戸時代後期の儒学史を考える上で欠かすことのできない重要なものです。

主な著作

『論孟衍旨』
『学庸衍旨』
『正学指掌』
『称謂私言』
『国学指要』
『素餐録』
『静寄余筆』
『冬読書余』

これらの著作は、現代においても様々な形で刊行されており、研究者や愛好家の間で読み継がれています。彼の生涯と業績は、日本の学問史における重要な一端を担っていると言えるでしょう。

関連事項

寛政の三博士 (柴野栗山、古賀精里)
頼山陽 (甥)
片山北海
昌平黌
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