山本常朝

山本常朝：生涯と『葉隠』への貢献

山本常朝は、江戸時代の佐賀藩士であり、武士道に関する名著『葉隠』の口述者として広く知られています。1659年、佐賀藩士の次男として生まれ、幼少期から恵まれた環境とは言い難い中で成長しました。父親の希望は塩売りでしたが、名付け親の尽力により、9歳で佐賀藩主・鍋島光茂の小僧として仕えることになります。

その後、父を亡くし、14歳で光茂の小姓となり、名前を市十郎と改めます。20歳で元服し、権之丞と名乗り、御書物役の手伝いなどを務めました。しかし、若殿との歌の相手をしたことが藩主に不興を買って一時職を解かれるなど、波乱の時期もありました。この頃、湛然和尚から仏道を学び、仏教への深い理解を深めていきます。

失意の時期を乗り越え、常朝は神道、儒教、仏教の学問を修め、藩随一の学者と称賛された石田一鼎に師事しました。多様な思想に触れた経験は、後の『葉隠』の内容に大きな影響を与えました。24歳で結婚、その後も御書物役を務め、江戸や京都での奉公も経験しました。

特に、京都での奉公では、和歌に造詣の深い光茂の依頼を受け、三条西実教より古今伝授を受けるための取り次ぎを務めました。これは容易ではなかった仕事でしたが、常朝の尽力によって成功し、隠居を間近に控えた光茂を喜ばせました。

藩主・光茂の死後、42歳で出家。剃髪し、旭山常朝と名乗って佐賀城下の山間部に庵を結び隠棲しました。この隠棲生活の中で、家臣・田代陣基との出会いが、後に『葉隠』執筆へと繋がります。宝永7年（1710年）、陣基の訪問をきっかけに、『葉隠』の口述が始まり、11巻に及ぶ書物が完成しました。

常朝は隠棲生活を送る傍ら、『葉隠』の執筆だけでなく、自身の系譜や詳細な年譜を記すなど、精力的に活動しました。享保4年（1719年）、61歳で亡くなるまで、武士としての精神と仏教の教えを生涯にわたって実践し続けました。

常朝の生涯は、武士道精神と仏教思想の融合という点で特筆すべきものです。『葉隠』は、常朝の経験と思想が凝縮された作品であり、その影響は現代においても色濃く残っています。困難な時期を乗り越えながら、常に学び続け、自己を磨き続けた常朝の生き様は、多くの人々に示唆に富むものと言えるでしょう。

常朝の生涯における主な出来事

1659年：佐賀藩士の次男として生まれる
1668年：鍋島光茂の小僧となる
1673年：父を亡くし、小姓となる
1678年：元服し、権之丞と名乗る
1682年：結婚、御書物役を拝命
1696年：京都で古今伝授の取り次ぎを務める
1700年：光茂の死後、出家
1710年：田代陣基との出会い、『葉隠』の口述開始
1716年：『葉隠』完成
1719年：没

『葉隠』への影響

常朝の生涯経験、特に仏教への傾倒、そして様々な思想との出会いは、『葉隠』の内容に深く影響を与えました。武士道精神だけでなく、慈悲の心、自己研鑽の重要性など、多角的な視点が『葉隠』に反映されています。

参考文献

小池喜明『葉隠 武士と「奉公」』（講談社学術文庫、1999年）

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