古今伝授

古今伝授：和歌解釈の秘伝と伝承の歴史

古今伝授とは、『古今[[和歌集]]』の解釈を師から弟子へと秘伝として伝えてきたものです。広義には『古今[[和歌集]]』解釈の伝承全般を指しますが、狭義には、藤原俊成・定家の子孫である二条家に伝えられた系統、さらにそこから分派した系統を指します。

歴史：平安末期から近世への伝承

『古今[[和歌集]]』の解釈を秘伝とする風習は、平安時代末期から見られます。鎌倉時代以降、公家の家系が固まり、家職が明確になると、歌学を家職とする二条家は、古今集の解釈を家中の秘伝として代々継承しました。しかし、二条為衡の死により二条家が断絶すると、二条家の教えを受けた者たち（二条派）によって、その解釈が受け継がれることになります。

二条為世の弟子である頓阿を皮切りに、経賢、尭尋、尭孝と受け継がれ、室町時代中期には、尭孝から東常縁へと伝授されました。常縁は当時の和歌界の権威となり、足利義尚や近衛政家、三条公敦といった有力者にも古今集の解釈を伝えました。当時、上流階級の教養である和歌の中核をなしていた古今集の解釈は、高度な知識を要し、容易に理解できるものではありませんでした。そのため、古今集の解釈を伝授されることは、大きな権威と名誉を伴うものでした。

文明3年（1471年）、常縁は美濃国妙見宮（現在の明建神社）で、連歌師である宗祇に古今集の伝授を行いました。宗祇は、その後、三条西実隆と肖柏に伝授し、肖柏から林宗二へと伝わったことで、古今伝授は大きく3系統に分かれました。三条西家に伝わった系統は「御所伝授」、肖柏から堺の町人に伝わった系統は「堺伝授」、林宗二の系統は「奈良伝授」と呼ばれます。堺伝授は、歌人ではない当主もいたため、切紙の入った箱を厳重に封印して受け継ぐ「箱伝授」という形をとっていました。

一方、古今伝授の内容は、伝承系統外にも広まり、民間歌人の間でも珍重されるようになりました。しかし、その後、俳諧の隆盛や国学の発展により、古今集の解釈が新たな手法で行われるようになると、古今伝授の影響力は徐々に衰えていきました。

御所伝授：朝廷への伝承

三条西家は代々一家で古今伝授を伝えてきましたが、三条西実枝は子が幼かったため、細川幽斎に伝授しました。慶長5年（1600年）、幽斎の居城田辺城が包囲された際に、朝廷は勅使を派遣し、幽斎の身柄を保護、開城させました。これは、古今伝授が途絶えることを防ぐためでした。幽斎は、八条宮智仁親王、三条西実条、烏丸光広らに伝授を行い、寛永2年（1625年）には後水尾上皇も八条宮から伝授を受けました。以降、この系統は「御所伝授」と呼ばれるようになりました。

内容：口伝と切紙

奈良伝授の内容は現在伝わっていませんが、御所伝授と堺伝授の内容は確認できます。御所伝授は、口伝と、紙に記したものを伝える「切紙伝授」によって構成されています。烏丸家には、現存最古とされる切紙とその付属書類が伝わっており、その内容を知ることができます。切紙は単に受け継がれただけでなく、近衛尚通や幽斎によって書き加えられたものもあり、時代が下るにつれて内容が変化していく傾向が見られます。また、師が弟子に伝授したことを認める証明書なども含まれていました。幽斎は、肖柏の一族から堺伝授の切紙を買い上げており、その経緯も伝授の内容に含まれています。

古今伝授は、単なる和歌の解釈法の伝承ではなく、日本の歌学、文化史を理解する上で非常に重要なものです。その歴史と内容を知ることで、日本の古典文学への理解が深まります。

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