岡倉士朗

岡倉士朗（1909年9月24日 - 1959年2月22日）は、日本の演出家であり、美術史家として知られる岡倉天心の甥にあたります。彼は、新築地劇団、ぶどうの会、そして民衆芸術劇場（後の劇団民藝）といった、当時の演劇界を代表する劇団を渡り歩き、歌舞伎やオペラなど、幅広いジャンルの舞台演出を手がけました。

生い立ちと新築地劇団での活動

岡倉士朗は、東京市本郷区丸山新町（現在の文京区白山）で生まれました。立教大学在学中の1929年、彼は新築地劇団に参加し、演出家としてのキャリアをスタートさせます。劇団では土方与志から演出の指導を受け、大学卒業後も引き続き劇団に所属し、才能を開花させていきました。新築地劇団時代には、長塚節の『土』（1937年）や豊田正子の『綴方教室』（1938年3月）などの演出を手がけ、高い評価を得ました。しかし、1940年8月、岡倉は新築地劇団を退団し、その後、治安維持法違反で検挙されるという困難にも直面しました。翌年には保釈されています。

東宝入社と戦後の活動

1943年、岡倉は東宝に入社し、新たなキャリアをスタートさせました。戦後の1947年には、木下順二、山本安英らと共にぶどうの会を結成し、同年に創設された民衆芸術劇場にも参加しました。1949年には、民衆芸術劇場で『女子寮記』や『山脈』といった作品を演出し、その才能を遺憾なく発揮しています。特に、木下順二がこの年に発表した『夕鶴』は、ラジオドラマ版と舞台版の両方で演出を手がけ、舞台版では「ぶどうの会」で初めて上演されました。岡倉の演出は、その後も長く『夕鶴』の舞台演出の基礎となりました。

晩年と演劇界への貢献

1950年から1951年にかけて、岡倉は山川幸世とともに『現代演劇論大系』（全8巻、五月書房）と別巻の編集に携わりました。1951年には、劇団民藝で『炎の人 ヴァン・ゴッホの生涯』を演出し、また同年には、加藤道夫作の『なよたけ』（尾上菊五郎劇団）の演出も担当しました。1955年には、團伊玖磨作曲、木下順二作の歌劇『聴耳頭巾』（宝塚大劇場）の演出を担当するなど、多岐にわたるジャンルでその才能を発揮しました。しかし、1959年、岡倉は急逝し、その突然の死は演劇界に大きな衝撃を与えました。山本安英は、岡倉の死が「ぶどうの会」にとって大きな転機となったと述べています。

岡倉士朗の演出と評価

岡倉士朗の演出は、その卓越した技術と深い芸術的理解によって、多くの観客と演劇関係者を魅了しました。彼の演出した『夕鶴』は、1971年に木下順二が見直すまで、その演出が踏襲され、彼の創造性と影響力の大きさを物語っています。

受賞

毎日演劇賞（1949年） - 『夕鶴』の演出

参考文献

宮岸泰治『女優 山本安英』影書房、2006年10月7日。

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