岡本公三

岡本公三（おかもと こうぞう、1947年12月7日生）は、日本の新左翼党派の一つである共産主義者同盟赤軍派のメンバーとして知られ、特に1972年に発生したテルアビブ空港乱射事件の実行犯の一人です。彼は広義には日本赤軍の一員とみなされますが、厳密には日本赤軍が結成される以前から活動していました。イスラエルでの服役を経て釈放された後はレバノンへ亡命し、現在も日本警察により国際手配されています。なお、よど号ハイジャック事件の実行犯である岡本武氏は実兄にあたります。

熊本県葦北郡芦北町で、小学校校長の子息として誕生しました。熊本マリスト学園高等学校を卒業後、兄と同じ京都大学を二度にわたり受験しましたが、合格には至りませんでした。1968年、鹿児島大学農学部に入学。大学在学中の1971年には、当時鹿児島大学を訪れた若松孝二・足立正生両監督の映画『赤軍－PFLP・世界戦争宣言』に深く共鳴し、その上映運動を展開した「赤バス隊」の一員として活動しました。そして1972年3月、共産主義者同盟赤軍派に正式に加入しました。

1972年2月29日、日本を後にした岡本はベイルートへ渡航。そこでパレスチナ解放人民戦線（PFLP）の施設にて、約3週間の自動小銃射撃訓練を受けました。その後、ドイツのフランクフルトなどヨーロッパ各地に潜伏期間を置いた後、ローマからフランス航空機でテルアビブ空港へと向かいました。この時点でも、彼はPFLP指導者の名前や所在地、イスラエルに関する詳しい情報は持っておらず、ただ「世界革命のためにお前が必要だ」という抽象的な指示に従って行動していたと後に述べています。1972年5月30日、奥平剛士、安田安之と共にテルアビブ空港乱射事件を実行しました。この事件により26人が犠牲となり、奥平と安田は死亡しましたが、岡本ただ一人が現場で逮捕されました。事件を受けて、彼は鹿児島大学から放学の懲戒処分を受けました。同年7月13日、イスラエルで裁判にかけられた際、岡本は自身の職業を「赤軍兵士」と称しました。裁判での陳述において、彼は一般市民の殺害について謝罪の意を示しませんでした。また、事件は当初、丸岡修を含めた4人で行う計画だったが、丸岡が途中で別行動を取ったため3人で実行したと供述しています。

イスラエル政府は当初、死刑を求刑することを検討していましたが、最終的には終身刑を求刑。その判決が確定し、彼は服役しました。約13年間の服役を経て、1985年5月、イスラエルとPFLP-GC（パレスチナ解放人民戦線総司令部）との捕虜交換の一環として釈放されました。リビア、シリアを経由し、日本赤軍が拠点を置いていたレバノンへと帰還し、他のメンバーと合流しました。日本警察は釈放直後の5月21日に岡本の逮捕状を取得し、5月23日には国際刑事警察機構（ICPO）を通じて国際手配を行いました。日本の刑法第5条では、外国で既に刑罰を受けている場合でも国内での処罰を可能とする一方、刑の軽減や免除を定めています。そのため、13年間服役した彼に対して日本がどのような処罰を行うかは、法的な焦点となり得ます。

その後、1997年にレバノンに潜伏していた日本赤軍メンバー5人が現地当局に検挙され、岡本もその中に含まれていました。彼は禁固3年の判決を受け、2000年3月に出所しました。彼以外の4人は、禁固刑を終えた後、日本へ強制送還されましたが、岡本については、イスラエルと対立するレバノン政府が政治亡命を承認しました。2000年3月2日には、報道陣の前でイスラム教への改宗を公表しました。2002年には、テレビ朝日系の報道番組「ザ・スクープ」がレバノン潜伏中の岡本に独占取材を実施。潜伏先の住居内でインタビューに応じた彼は、犠牲者への謝罪とも取れる言葉を口にした一方、壊滅状態にあった日本赤軍の現状については把握していない様子でした。しかし同時に、「自らの心情は事件当時の24歳から変わっていない」とも述べています。2003年には共同通信のインタビューに応じ、「日本に帰って昔の友人たちに会いたい」と、故郷への強い思い、すなわち望郷の念を語りました。その際、彼の動作は緩慢で、健康上の問題を抱えているように見受けられました。これについてレバノン政府は、イスラエル獄中での治安機関による拷問の後遺症による精神疾患であり、発語などに障害が生じているためだと説明しています。

現在、岡本はイスラエルと敵対するパレスチナ解放人民戦線（PFLP）やヒズボラなどの庇護を受け、レバノンの首都ベイルート郊外のアパートに在住しています。レバノン政府からは政治的な活動を制限されており、公の場に姿を見せる機会は極めて少ないものの、2010年4月28日には、事件で死亡した奥平剛士のために日本のロックバンド・頭脳警察のPANTA氏が行ったベイルートでの追悼ライブに姿を見せました。2011年には、日本の支援者とはSkypeを通じて定期的に連絡を取り合っており、健在であることが報告されています。過去には糖尿病を患いましたが、現在は健康を保っています。しかし、イスラエルでの拷問が原因とされる統合失調症については、現地専門医の見解として、「病状の悪化は防げるが、完治は望めない」とされています。

近年も時折、日本のメディアの取材に応じています。2016年5月14日、滞在先のベイルートで共同通信の取材に応じた際には、パレスチナの地に骨を埋めたいと願う気持ちを語り、事件の犠牲者の多くがプエルトリコ人であったことに触れ、「犠牲者の方々には哀悼の意を表したい」と、事件後初めて明確な謝罪の言葉を口にしました。しかし、2017年4月下旬の毎日新聞の取材では、「一度は（日本に）帰りたいが、普通の生活は望めないだろうから、帰国に固執はしない」と述べた一方、この事件を「テロではなく、パレスチナ解放人民戦線（PFLP）と共に行った武装闘争であり、それは最高のプロパガンダとなる」と主張。自らの行為への反省や謝罪、そして世界同時革命が実現していない現状に関する記者の問いには、明確な回答を避けました。この際、彼を保護するパレスチナ側の支援組織は、「日本のメディアの本格的な取材に応じるのはおそらくこれが最後」としつつ、「岡本公三が生涯を終えるまで面倒を見る」という姿勢を崩していないと伝えられました。

2017年11月21日には、岡本のためにキャッシュカードを不正に取得したとして、左翼系新聞「人民新聞」の社長が詐欺容疑で逮捕され、後に有罪判決（懲役1年、執行猶予3年）が確定しています。2022年5月30日には、テルアビブ空港乱射事件から50周年を迎えた記念集会に、支援者に付き添われながらベイルートで参加しました。同時期には東京都内でも岡本の支援団体による集会が開かれ、約100名が出席しています。事件50周年を機に、在日イスラエル大使は、彼や同時期に出所した重信房子元日本赤軍最高幹部が歓迎される様子を見て愕然とした、との内容を自身のTwitterに投稿し、反響を呼びました。

余談として、岡本は実兄である岡本武氏を深く尊敬していたと伝えられています。彼の渡航費用など約30万円は、映画監督の若松孝二氏が支援したものであり、若松プロダクションには彼が記した「借用書」が現存するというエピソードがあります。事件で使用した偽造旅券は、写真製版による精巧な偽造品で、「ナンバ ダイスケ」という名義が使われていました。これは、1923年の虎ノ門事件の犯人である難波大助に由来するとされています。また、事件後、岡本の父は、駐日イスラエル大使に対し「息子を極刑に処してほしい」とする謝罪の手紙を送ったほか、当時のイスラエル首相ゴルダ・メイア氏にも同様に謝罪の書簡を送付したと伝えられています。1975年には、獄中から事件に至るまでの経緯を綴った手記を週刊新潮に寄稿。これは同年8月28日号に「テルアビブまでの旅」として特別記事として掲載されました。2007年には、彼をモデルにした映画『幽閉者 テロリスト』が制作されました。これは、かつてパレスチナに渡り日本赤軍に参加し、強制送還された経験を持つ足立正生監督の35年ぶりの作品で、主演は田口トモロヲ氏が務めました。

もう一度検索