岩崎輝弥

岩崎輝弥：鉄道趣味の先駆者

岩崎輝弥（いわさき てるや、1887年6月18日 - 1956年9月17日）は、日本の実業家でありながら、鉄道趣味の先駆者として知られる人物です。三菱財閥の創業者一族に生まれ、恵まれた環境にありながらも、実業界での目立った業績を残すことはなく、その情熱を注いだのは鉄道の世界でした。

生い立ちと学歴

1887年、岩崎弥之助と早苗の三男として東京府に生まれた輝弥は、幼少期からエリート教育を受けました。高等師範学校附属小学校（現・筑波大学附属小学校）、東京高等師範学校附属中学校（現・筑波大学附属中学校・高等学校）を経て、東京帝国大学農科大学実科（現・東京農工大学農学部）を卒業。しかし、実業界に進んだものの、父や兄のような財閥を率いる立場にはならず、酪農業に従事しました。立川養豚場や、小説のモデルになった子安農園を経営するなど、実業家としての側面もありましたが、その名は主に鉄道ファンとしての活動で知られています。

鉄道への情熱

輝弥が鉄道に興味を持ち始めたのは、1902年から1907年にかけてのことです。渡邊銀行創立者の一族である渡邊四郎との出会いが、彼の鉄道趣味を大きく開花させました。当時、渡邊は親族の鉄道技師の影響で鉄道に関心を抱いており、渡邊の弟と同学だった輝弥が、その縁で知り合い、鉄道の世界に足を踏み入れたとされています。この時期、二人は写真家・小川一真に依頼し、北海道から九州まで、日本全国で鉄道写真を撮影しました。

鉄道写真コレクション

小川一真とその門下の写真師たちが撮影した写真は、蒸気機関車を中心に、客車、駅舎、隧道、橋梁など多岐にわたります。組み立て暗箱を用いてガラス乾板に撮影されたこれらの写真は、その精細さと鮮明さにおいて、同時代に撮影された鉄道写真の中でも突出したクオリティを誇ります。撮影期間はわずか5年と短い期間でしたが、体系的な被写体選択とカメラアングルの的確さによって、当時の鉄道の様子を鮮やかに記録しています。また、これらの写真にのみ記録されている車両も少なくありません。

1940年、輝弥はこれらの貴重な写真を、渡邊家の遺族とともに鉄道博物館（後の交通博物館）に寄贈しました。このコレクションは「岩崎・渡邊コレクション」として、現在では鉄道博物館（さいたま市）に所蔵されています。これらの写真は、当時の鉄道趣味者たちの写真撮影スタイルに大きな影響を与えただけでなく、撮影時期と撮影場所が特定可能であることから、明治期の鉄道研究における重要な基準資料となっています。

鉄道ファンの先駆者

岩崎輝弥は、その情熱と行動力によって、日本の鉄道ファンの先駆者と見なされています。彼の業績のほとんどは鉄道趣味に関わるもので、特に鉄道写真の分野において大きな貢献をしました。現代の鉄道ファンの分類でいえば、彼は「撮り鉄」に該当すると言えるでしょう。

栄典と家族

1940年11月、輝弥は紺綬褒章を受章しました。父・弥之助は三菱財閥の2代目総帥、母・早苗は政治家・後藤象二郎の長女という名門の家柄です。妻の須美は初代東京物理学講習所所長の櫻井房記の次女であり、造船学者・櫻井省三と化学者・櫻井錠二は輝弥の義理の叔父にあたります。また、輝弥と須美の間には、2男2女がおり、その子供達を通して、岩崎家は櫻井家、坂口家、北原家、岡部家と姻戚関係で結ばれています。

参考文献

『人事興信録 第5版』人事興信所、1918年
『人事興信録 第7版』人事興信所、1925年
『人事興信録 第11版 上』人事興信所、1937年
『人事興信録 第13版 上』人事興信所、1941年
『人事興信録 第14版 下』人事興信所、1943年
『人事興信録 第19版 上』 人事興信所 1957年
『昭和人名辞典 第1巻 東京篇』日本図書センター 1987年
「特集 三菱最強伝説」『週刊ダイヤモンド』2016年1月30日号

関連項目

筑波大学附属中学校・高等学校の人物一覧
テツぼん - 岩崎輝弥をモデルとする人物が登場する漫画

岩崎輝弥は、実業家としての側面よりも、鉄道趣味の世界におけるパイオニアとしての足跡を強く残しました。彼の残した鉄道写真は、日本の鉄道史研究において、今もなお重要な資料として活用されています。

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