島津貴澄

島津貴澄（しまづ たかずみ）

島津貴澄は、江戸時代後期の薩摩藩士で、大隅郡垂水領を治めた垂水島津家の10代当主です。元文3年（1738年）に、薩摩藩第4代藩主島津吉貴の六男として生まれました。母は側室のお幾で、異母兄には第5代藩主の継豊や、垂水家先代当主の貴儔などがいます。また、同母兄には重富島津家を創設した忠紀、宮之城島津家を相続した久亮、異母弟には今和泉島津家を創設した忠卿がいます。

貴澄は、当初、極秘のうちに養子となり、貴儔の直子として扱われました。安永4年（1775年）に貴儔が隠居すると、垂水家の家督を相続し、当主となりました。この時、垂水家の家格は重富家、加治木家に次ぐ3番目の席次となり、これまで前当主貴儔一代限り一門家筆頭であった垂水家当主の席次は原則通りとなりました。

貴澄は領内の教育にも力を注ぎ、安永5年（1776年）には垂水領内に郷校「文行館」を設立しました。高崎から市川鶴鳴、讃岐から乾徽猷、本藩からも向井友章、黒田為国など、著名な儒学者を招き、教育の充実を図りました。文武両道に秀でた人物を育成しようという、貴澄の強い意志がうかがえます。

安永8年（1779年）10月には、桜島の安永大噴火が発生しました。貴澄は、この未曽有の災害に対し、被災者の救助や復旧に尽力しました。領民の生活再建のため、積極的に行動したことは、領民からの信頼を集めました。また、安永10年（1781年）5月には、噴火による犠牲者を供養するため、松岳寺境内に桜島焼亡塔を建立しました。この塔は、災害の記憶を後世に伝えるとともに、犠牲者の冥福を祈るためのものでした。

享和3年（1803年）12月1日、貴澄は隠居し、家督を婿養子の貴品に譲りました。文化4年（1807年）3月5日に、70歳で生涯を閉じました。貴澄は、詩文にも優れた才能を持っており、その作品は、文化9年（1812年）に詩集「廃簏詩稿」として刊行されました。全8巻からなるこの詩集は、当時の文化を知る上で貴重な資料となっています。

貴澄は、藩主一門として、藩政を支えながら、領内の教育や災害復興に尽力し、文化人としても優れた足跡を残しました。その功績は、現在も語り継がれています。

参考資料

『垂水市史』第1巻　垂水市史編集委員会、1973年
西尾市岩瀬文庫／古典籍書誌データベース

もう一度検索