川崎縦貫高速鉄道

川崎縦貫高速鉄道：幻に終わった川崎の南北を結ぶ鉄道計画

川崎縦貫高速鉄道は、1960年代から川崎市が計画していた鉄道路線です。当初は新百合ヶ丘駅から川崎駅を結ぶ地下鉄路線として計画され、「川崎市営地下鉄」とも呼ばれていました。しかし、計画は幾度も変更され、最終的には実現することなく、2018年に計画が正式に廃止されました。この未完の路線計画について、その歴史、計画の変遷、そして計画中止に至るまでの経緯を詳細に解説します。

計画の始まり

川崎市に地下鉄を建設する構想は、1960年代に遡ります。1966年には、都市交通審議会が川崎市を縦断する地下鉄5号線の整備を答申しました。これが川崎縦貫高速鉄道の原型となりました。1973年には、川崎市が新百合ヶ丘駅周辺を北西部の拠点として開発する「北部副都心構想」を発表し、路線の起点が新百合ヶ丘に変更されました。

武蔵野南線旅客化計画の頓挫

1980年代後半になると、国の方針が変わり、貨物輸送の減少に伴い、貨物線の旅客線化が推進されるようになりました。これを受け、川崎市は武蔵野南線を活用し、府中本町から川崎を結ぶ旅客線を計画しました。しかし、国鉄が分割民営化され、JR各社が発足すると、JR東日本は武蔵野南線の旅客線化に消極的な姿勢を示しました。このため、川崎市は初期整備区間を新百合ヶ丘から東急田園都市線間に絞って検討しましたが、JR東日本の姿勢は変わらず、計画は頓挫しました。

新線建設への転換

JR東日本の協力が得られない中、川崎市は1995年頃から新百合ヶ丘から川崎間を新線で整備する方針に転換しました。事業主体は当初第三セクターとされていましたが、後に川崎市交通局を事業主体とする市営地下鉄として整備することになりました。1996年頃から、新百合ヶ丘から宮前平を経由して東急東横線に接続する路線として建設する計画が進められました。また、小田急電鉄と新百合ヶ丘駅での相互乗り入れの協議も行われましたが、結局実現しませんでした。その後、運輸政策審議会の調停により、京急大師線との相互乗り入れを前提とした計画に変更されました。

2000年には、運輸政策審議会答申第18号で、新百合ヶ丘 - 宮前平 - 元住吉 - 川崎間が2015年度までに開業すべき路線に指定され、着工に向けた動きが本格化しました。川崎市は元住吉を境に新百合ヶ丘側を初期整備区間、川崎側を2期整備区間として段階的に整備することとし、2001年には新百合ヶ丘 - 元住吉間の鉄道事業許可を取得、環境影響調査も実施されました。

計画凍結とルート再変更

2001年の川崎市長選挙では、地下鉄計画が争点となり、「地下鉄計画は原則推進」を表明した阿部孝夫氏が当選しました。しかし、阿部市長は事業費の削減を検討させ、市民アンケートの結果を受け、2003年に計画を5年間凍結することを決定しました。その後、川崎市の財政は黒字化しましたが、2005年に阿部市長は川崎縦貫高速鉄道の採算性を高めるとの理由で、再度ルートを変更しました。初期整備区間の終点を、東急線しか接続できない元住吉駅から、JRと東急の両方に接続でき、東京駅方面への連絡も可能である武蔵小杉駅に変更しました。これにより、川崎フロンターレの本拠地である等々力陸上競技場をはじめ、川崎市の大型公共施設が集中する等々力緑地を経由することになりました。

川崎市は、国の事業許可を受け、補助採択がなされ、環境アセスメント調査まで実施されていた新百合ヶ丘 - 元住吉間の事業廃止を決定しました。2005年9月9日に同区間の鉄道事業の廃止届を国土交通省に提出し、翌2006年4月1日に同区間の第一種鉄道事業が廃止されました。2007年12月には、川崎市交通局が市議会で2008年度の地下鉄事業認可取得が困難であると答弁しています。

計画廃止まで

2009年の市長選挙では、地下鉄計画の是非が再び争点となりましたが、計画推進を掲げた阿部孝夫氏が再選されました。阿部市長は、新技術の導入検討も含めた交通システムの比較検討を行い、2年程度かけてコスト削減策や事業方針をまとめることを指示しました。しかし、2012年には、検討委員会が燃料電池による地下鉄車両の実現は技術的に難しいこと、将来の人口減少など社会環境の変化を考慮した収支検討が必要なことを指摘しました。

この提言を受け、2013年1月に阿部市長は、新百合ヶ丘 - 武蔵小杉間の計画に対して設けられていた高速鉄道事業会計を廃止することを明らかにしました。その後、2015年に川崎市は財政状況の悪化を理由に計画を休止、2018年3月には総合都市交通計画の中間見直しにおいて、本計画の廃止が正式に決定しました。

計画の変遷

1984年川崎市案

1984年に運輸政策審議会に提出された案では、塩浜から元住吉間を1992年から1996年までに、元住吉から新百合ヶ丘間を2001年までに建設するとしていました。この案では、新百合ヶ丘、長沢、医大前、蔵敷、犬蔵、宮前平、元住吉、新川崎、川崎、塩浜に駅を設置する計画でした。

1992年川崎市案

1992年の案では、新百合ヶ丘から武蔵野南線に接続し、武蔵小杉に至る路線としていました。この案では、軌間は1067mmでした。

1998年川崎市案

1998年の案では、新百合ヶ丘から川崎を結ぶ路線で、新百合ヶ丘、宮前平、新川崎地区新駅、川崎に駅を設置する計画でした。この案でも軌間は1067mmでした。

鉄道事業許可計画

2001年に取得した鉄道事業許可計画では、新百合ヶ丘から川崎を結ぶ路線で、軌間は1435mmでした。駅は、新百合ヶ丘、長沢、医大前、蔵敷、犬蔵、宮前平、野川、久末、井田、元住吉、夢見ヶ崎、新川崎地区新駅、都町、川崎を予定していました。

2003年川崎市見直し案

2003年の見直し案では、軌間を1067mmに変更し、小田急多摩線との相互直通運転を行うこととしていました。また、車両基地は小田急多摩線のものを活用する計画でした。

2005年川崎市見直し案

2005年の見直し案では、初期整備区間を新百合ヶ丘から武蔵小杉とし、2期整備区間を武蔵小杉から川崎としました。この案では、等々力緑地を経由し、南武線、東急東横線、東急目黒線、横須賀線と接続する計画でした。

横浜市営地下鉄ブルーライン延伸計画

2019年には、横浜市営地下鉄ブルーラインのあざみ野駅から新百合ヶ丘駅間の延伸計画が発表されました。この計画が実現すれば、川崎市としては初の地下鉄路線が開業することになります。2020年1月には、延伸区間の予定ルートと駅位置が発表され、2030年頃の開業を目指しています。この計画では、川崎市内にヨネッティー王禅寺付近に新駅が設置される予定です。

まとめ

川崎縦貫高速鉄道は、川崎市の南北を結ぶ重要な路線として計画されていましたが、様々な要因により実現に至りませんでした。しかし、その計画は、川崎市の交通政策において重要な役割を果たし、今後の都市計画にも影響を与え続けると考えられます。

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