工事担任者

工事担任者とは

工事担任者とは、電話、FAX、インターネットなどの公衆回線やCATVの通信回線に接続する端末設備、伝送交換機、線路の工事や監督を行うための国家資格です。総務省が所管しており、電気通信事業法に基づき1985年に制定されました。この資格は、電気通信工事の専門家として、有線・無線の両方の工事に携わることができ、ネットワークシステムの構築や線路交換設備の工事など、幅広い分野で活躍できます。

概要

工事担任者は、電気通信事業法では「工事担任者資格者証の交付を受けている者」と定義されていますが、具体的な工事の種類が不明確なため、「電気通信の工事担任者」や「電気通信設備工事担任者」と表記されることもあります。また、「工事担当者」と誤記されることもあるため注意が必要です。略称として「担任者」や「工担」と呼ばれることもあります。

この資格を持つことで、電話やネットワークシステムの構築、線路交換設備工事などの有線・無線工事を行うことができます。また、3年の実務経験を積むことで、建設業法の電気通信工事業の許可を得ることも可能です。端末工事を監督する際には、常に資格者証を携帯する必要があります。

工事は微弱な電圧で行われるため、電気工事士などの資格は不要です。

沿革

工事担任者の資格は、制定当初はアナログとデジタルの種別ごとに分かれていましたが、制度改正により変遷を重ねてきました。以下にその主な沿革をまとめます。

• - 昭和60年(1985年): 制定当初は、アナログ第一種、アナログ第二種、アナログ第三種、デジタル第一種、デジタル第二種の5つに区分されていました。
• - 平成8年(1996年): アナログ・デジタル総合種が追加され、6区分となりました。
• - 平成10年(1998年): デジタル第三種が追加され、7区分となりました。
• - 平成17年(2005年): 資格の種類と工事範囲が大幅に変更されました。旧資格者は従来の工事範囲を引き続き行うことができ、資格の名称や工事範囲は変更されませんでした。
• - 平成25年(2013年): DD第二種・第三種で工事可能なインターネット回線の速度が1Gbps以下に拡大されました。
• - 令和3年(2021年): 第二種（AI・DD）が廃止され、名称が変更されました。また、既取得の第二種資格は、従前の名称と監督範囲のまま有効です。科目合格者のみを対象とした試験が3年間実施されました。AI・DD総合種は「総合通信」、第一種は「第一級アナログ通信」「第一級デジタル通信」、第三種は「第二級アナログ通信」「第二級デジタル通信」に名称変更されました。

種別

工事担任者の資格には、アナログ、デジタル、総合通信の3つの種別があります。

• - アナログ：ダイヤル回線やプッシュ回線などのアナログ回線
• - デジタル：ISDN回線、CATV回線、光ケーブルを用いた回線
• - 総合デジタル通信：ISDN回線。

第一級アナログ通信と第一級デジタル通信の両方を保有する者は、申請のみで総合通信の資格を取得できます。

工事担任者を要する工事

電気通信事業法施行前は、公衆回線に自営設備を接続することが認められていませんでしたが、施行後は、屋内配線工事も工事担任者が行えるようになりました。具体的には、電話回線に黒電話以外の電話機を接続する際や、ローゼットを介して接続する際など、通信品質を維持するために工事担任者の資格が必要となります。

現在では、公衆網やIP網と利用者側設備の接続だけでなく、障害発生時の対応、回線試験、復旧工事など、様々な作業に工事担任者が必要とされています。そのため、総務省は工事の発注者に対して、有資格者による工事を推奨しています。

一般的には、第二級アナログ通信の資格があれば、電話工事において、屋外からの引込口から宅内のモジュラージャックまでの工事を行うことができます。新築やリフォーム工事では、電気工事士と共に需要が高く、規模の大きな事務所では、第一級アナログ通信または総合通信の資格が必要になる場合があります。デジタル通信の資格は、主に通信工事業者で必要とされ、事務所の工事や通信機器の設置が主流です。近年では、一般家庭向けのFTTHなどの光ファイバー工事やCATVモデムの出力レベル調整にも必要です。

工事担任者を要しない工事

工事担任者規則第3条および工事担任者を要しない端末機器の接続の方式（昭和60年郵政省告示第224号）に基づき、以下のような工事は工事担任者の資格が不要です。

• - 専用設備に端末を接続する場合
• - 船舶や航空機に設置する端末設備を接続する場合
• - 適合表示端末機器、通信事業者が検査を省略する端末設備などを、プラグジャック方式、アダプタ式ジャック方式、音響結合方式、電波により接続する場合

市販の電話機をモジュラージャックに接続するだけであれば、資格は不要です。

インターネット回線と工事担任者資格の要否

インターネット回線では、ルータやPCを接続するLAN配線工事にも工事担任者の資格が必要となる場合があります。ただし、技適表示のあるルータなどの機器をプラグジャックや無線で接続する場合は、資格は不要です。しかし、LANケーブルの長さを利用者が調整する場合は資格は不要ですが、施工不良を考慮して工事担任者の作業が推奨されます。

取得方法

工事担任者資格を取得するには、以下の3つの方法があります。

1. 国家試験に合格する
2. 養成課程を修了する
3. 総務大臣が同等と認定する

国家試験

国家試験は、日本データ通信協会電気通信国家試験センターが年2回実施しています。試験科目は「電気通信技術の基礎」「端末設備の接続のための技術及び理論」「端末設備の接続に関する法規」の3つです。試験方式は、第一級アナログ通信、第一級デジタル通信、総合通信はマークシート方式、第二級アナログ通信、第二級デジタル通信はCBT方式です。

養成課程

日本データ通信協会がインターネットを介して実施している養成課程があり、eラーニングで学習できます。

資格の欠格事由

電気通信事業法に規定する罪を犯し罰金以上の刑に処せられた場合や、工事担任者資格者証の返納命令を受けた場合、一定期間、資格者証の交付がされないことがあります。

工事担任者資格者証

資格者証は、運転免許証やクレジットカードと同じサイズのプラスチックカードで、ホログラムが施されています。申請には、原則として氏名と生年月日を証明する書類の添付が必要です。

情報通信エンジニア

工事担任者は終身資格ですが、最新の知識・技術を維持する努力が義務付けられています。日本データ通信協会では、「情報通信エンジニア」の認定制度を設けており、資格取得者は講習を受けることで最新の知識・技能を証明できます。情報通信エンジニアには、「ビジネスユース」と「ホームユース」の2種類があり、それぞれ対象となる工事規模が異なります。

その他

• - 試験科目が免除される資格として、電気通信主任技術者や無線従事者があります。
• - 工事担任者は、工事担任者養成課程の講師になることができます。
• - 自衛隊の技術曹（通信）や予備自衛官補の技能公募枠（通信）も、一定の条件を満たせば任用されることがあります。

工事担任者は、現代の通信インフラを支える重要な役割を担っており、その活躍は今後もますます期待されています。

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