己斐橋

己斐橋：歴史と変遷を刻む広島の橋

己斐橋は、広島県広島市を流れる太田川（太田川放水路）に架かる道路橋です。現在では広島県道265号伴広島線の一部を担っており、古くから広島の交通を支えてきた歴史を持つ橋として知られています。下流側には歩道橋が併設されています。

歴史の始まりと近世

己斐橋の最初の架橋年は不明ですが、少なくとも安土桃山時代には存在していたことが、慶長元年（1596年）の『毛利氏奉行人連署書状』から確認できます。この書状には、文禄の役で名護屋城に向かう豊臣秀吉がこの地を通るため、己斐橋の修繕が命じられたと記されています。

中世の山陽道は己斐橋の北側を通っていましたが、近世になると西国街道が己斐橋を経由するルートに変更され、広島城下への西側の玄関口として重要な役割を担うようになりました。この街道は、己斐橋から福島橋、天満橋を経て広島城下へと至る経路でした。街道変更の正確な時期については、諸説あります。

毛利氏による整備説と、江戸時代初期の広島藩主・福島正則による整備説があり、広島市史では後者の説を採用しています。城下から佐伯郡へ出る橋として「出郡橋」、佐伯郡と沼田郡の境にあることから「佐沼橋」とも呼ばれていました。

戦略的な要衝と土橋時代

己斐橋は、城下への西の玄関口であり、要害の地でもあったことから、戦略上および防犯上の理由から架橋が厳しく規制されていました。そのため、山手川（己斐川とも呼ばれる）に架かる橋は己斐橋のみという状況が長く続きました。

戦略的な観点から、江戸時代を通じて土橋であったと推測されています。明和元年（1764年）頃の『行程記』（有馬喜惣太）には、己斐橋が長さ40間（約72.7m）の土橋として描かれています。しかし、洪水が多発した太田川流域では落橋の被害も度々発生しており、寛政8年（1796年）と嘉永3年（1850年）には落橋した記録が残っています。

近代化と架け替え

明治時代に入ると、西国街道は国道（後の国道2号）となり、架橋規制も緩和されました。市内には新たな橋が増え、1897年（明治30年）には山陽鉄道己斐駅（現在のJR西広島駅）が開業、1912年（大正元年）には広島電鉄の軌道と広電己斐電停（現在の広電西広島駅）が開業し、己斐鉄橋（当時は電車専用橋）も架けられました。

己斐橋は木橋でしたが、1904年（明治37年）7月に最後の木橋として架け替えられました。日露戦争中という時期であり、1905年（明治38年）の芸予地震では橋脚が沈下する被害も受けています。その後も幾度かの修繕が行われましたが、老朽化が進んだことから永久橋への架け替えが決定しました。1923年（大正12年）の洪水でも一部が破損しています。

1925年（大正14年）3月に着工、1926年（大正15年）3月に竣工した新しい己斐橋は、橋面をアスファルト舗装、高欄を花崗岩製とし、鋼製または青銅製の照明や装飾が施された近代的な橋でした。開通式には多くの市民が参加し、歓迎されました。しかし、主要国道としては幅員が狭かったという指摘もあります。

太田川放水路工事と戦後

1932年（昭和7年）には太田川放水路工事が決定し、己斐橋も架け替えが決定しましたが、実際には戦後になってから工事が行われました。1945年（昭和20年）の広島への原子爆弾投下では、爆心地から約2.1kmの距離にあり、爆風で小破しましたが、通行に支障はありませんでした。

戦後、太田川放水路工事が本格化し、己斐橋は取り壊され、1965年（昭和40年）に現在の己斐橋が架けられました。下流側には新己斐橋も架橋され、主要な交通量はそちらに移っています。

周辺環境

己斐橋周辺には、上流側に広島高速4号線（西風新都線）の広島西大橋、下流側に平和大通りと広島電鉄本線が通る新己斐橋があります。東へ進むと天満橋、さらに本川橋を渡ると広島平和記念公園へ至ります。右岸側下流にはJR西広島駅と広電西広島駅、上流にはノートルダム清心中学校・高等学校があります。己斐橋は、これらのランドマークと深く関わって、広島の歴史と発展を繋いできた重要な橋なのです。

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