帛書

帛書とは

帛書（はくしょ）とは、古代中国において、絹布（帛）に書かれた書物のことです。文字だけでなく、絵画が描かれたものもあり、それらは帛画（はくが）と呼ばれます。一般的には、古代中国の古文書としての帛書を指します。

概要

紙が発明される以前、古代中国では文字を記録する媒体として、竹簡・木簡と並んで帛書が用いられました。特に春秋戦国時代から漢代にかけて多く製作され、その中でも、絹布は細かく織った絹を指します。

帛書は、竹簡や木簡に比べて、美しく仕上がり、軽量で薄く、持ち運びにも便利でした。しかし、耐水性、耐腐食性、耐虫性においては劣り、長期保存には不向きでした。長年の保存で文字が上下の布に転写して読みにくくなっている例や、太陽光や紫外線により黄色く変色している例も多く見られます。

製作コストも竹簡や木簡に比べて高く、希少品として扱われていたと考えられます。しかし、歴史に名を残すことを「名を竹帛に垂れる」と言うように、帛書自体は古代において比較的よく知られていた可能性も示唆されています。

腐敗・腐食しやすいため、多くは失われてしまいましたが、地層に防腐剤のような天然素材が存在した地域で、近年多数の帛書が出土しています。特に楚の国があった地域からの出土が多く、有名なものに楚帛書や馬王堆帛書があります。馬王堆帛書は、医学、天文学、道家思想など多岐にわたる分野で貴重な資料を提供しており、世界最古とされる針灸医書も含まれています。また、老子の思想を記した『老子道徳経』の写本も発見され、現在に伝わるものとの比較研究が進められています。

特徴

素材: 絹布（帛）を使用
利点: 美しい仕上がり、軽量、薄く、持ち運びが容易
欠点: 耐水性、耐腐食性、耐虫性が低い、長期保存に不向き、高コスト
出土地域: 楚の国があった地域（湖南省など）

帛書の種類

楚帛書: 1934年に湖南省長沙市の子弾庫楚墓から出土。
馬王堆帛書: 1972年以降、湖南省長沙市の馬王堆漢墓から出土。医学、天文学、道家思想など多岐にわたる分野の資料が含まれる。
黄帝四経: 戦国時代から漢代初期にかけて流行した黄老思想の帛書。
老子道徳経: 馬王堆漢墓から3種類の写本が出土。

その他

帛書は、中国の書道史においても貴重な資料となっています。
馬王堆帛書の『天文気象雑占』には、朱墨で点や線が引かれ、太陽と思われる絵画も描かれています。
帛書の解読には、多くの日本人研究者も協力しています。
簡牘（竹簡・木簡）と帛書を合わせて「簡帛」と呼ぶこともあります。
日本においても、絹は絵画を描くキャンバスとして使われていますが、文字を書き入れる帛書とは利用目的が異なります。
近年でも、李氏朝鮮時代の黄嗣永が帛書に書いた書が発見された例があります。
現在でも、布書き用の特殊墨汁「帛書墨」が販売されていますが、帛書に使われることはほとんどなく、主にTシャツや横断幕用に使われています。

著名な帛書

古代中国の帛書：楚帛書、馬王堆帛書など
日本の帛書：該当なし
その他の帛書：黄嗣永帛書

関連著作物

『馬王堆簡帛文字編』陳松長 編著
『長沙馬王堆漢墓簡帛集成』
『簡牘帛書通仮字字典』白於蘭編著
『簡牘帛書字典』陳建貢編纂
『馬王堆帛書精選』毎日新聞社
『五十二病方 馬王堆出土文献訳注叢書』小曽戸洋、町泉寿郎、長谷部英一 著
『馬王堆漢墓帛書五行篇研究』汲古書院 池田知久
『馬王堆三号漢墓帛書「老子」乙本と巻前古佚書』 田中有
『「長沙子弾庫帛書」に見られる「神」の役割について』 高戸 聰

脚注

特になし

出典

特になし

関連項目

馬王堆漢墓 - 馬王堆帛書が出土した古墳。
楚文字 - 楚地で発見された帛書に多く記載されている文字。

外部リンク

武漢大学簡帛研究中心
復旦大学出土文献与古文字研究中心
清華大学出土文献研究与保護中心
* 馬王堆帛書《十一脈灸経》簡介針灸中国(馬王堆帛書から出土した十一脈灸経・中国語)

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