平群木菟

平群木菟（へぐり の つく）について

平群木菟（へぐり の つく、生没年不詳）は、古代日本の人物で、『日本書紀』や『古事記』に登場します。名前の表記は文献によって異なり、『日本書紀』では「平群木菟宿禰（へぐりのつくのすくね）」や「木菟宿禰」、『古事記』では「平群都久宿禰」と記されています。また、他の文献では「都久足尼」とも表記されます。「宿禰」は尊称です。

系譜

平群木菟は、武内宿禰の子とされています。『日本書紀』では、仁徳天皇元年正月3日条において、武内宿禰の子として登場します。『古事記』では、孝元天皇の段で、建内宿禰（武内宿禰）の7男2女のうちの第4子として記載されています。また、『新撰姓氏録』でも、右京皇別 平群朝臣条などで、武内宿禰の子とされています。

記録

『日本書紀』によると、仁徳天皇と平群木菟は同日に生まれたとされています。この時、応神天皇の子の産殿には木菟（ミミズク）が、武内宿禰の子の産屋には鷦鷯（ミソサザイ）がそれぞれ飛び込んだため、鳥の名前を交換して名付けられたという伝承があります。

しかし、平群木菟は、応神天皇の時代にも既に活躍していたとされています。同書応神天皇3年条によると、百済の辰斯王が天皇に無礼を働いたため、木菟宿禰は紀角宿禰らと共に百済へ派遣され、その無礼を責めました。その結果、百済は辰斯王を殺害し謝罪し、代わりに阿花王を立てました。

また、同書応神天皇16年条には、葛城襲津彦が新羅から帰国しないため、天皇は平群木菟と的戸田宿禰を派遣し、新羅を牽制しました。新羅王は平群木菟らの軍勢に恐れをなし、罪を認めました。その後、弓月君の民を率いて襲津彦と共に日本へ帰国したとされています。

さらに、履中天皇の時代には、住吉仲皇子（履中の弟）が反乱を起こした際、物部大前宿禰や阿知使主と共に皇太子（履中）を助けました。その後、反正天皇の仲皇子討伐にも参加しましたが、仲皇子を殺した刺領巾を、主君に慈悲がないとして殺害したという逸話も残されています。

履中天皇2年条には、天皇が磐余に都を移した際、蘇賀満智宿禰、物部伊莒弗大連、円大使主らと共に国政を執り行ったと記されています。

『古事記』には、平群木菟の事績に関する記述はありません。

後裔氏族

『日本書紀』では、平群木菟を平群臣の祖としています。『古事記』では、平群臣、早良臣、馬御樴連など諸氏族の祖としています。

『新撰姓氏録』には、以下の氏族が後裔として記載されています。

右京皇別 平群朝臣
右京皇別 平群文室朝臣
右京皇別 都保朝臣
大和国皇別 馬工連
河内国皇別 早良臣
河内国皇別 額田首
* 摂津国未定雑姓 韓海部首

額田首については、平群木菟の次男（額田早良宿禰）が母の氏である額田首を名乗ったとされています。平群氏を名乗らなかった理由として、平群真鳥が朝敵として討伐されたこととの関連性が指摘されています。

考証

平群木菟は、『日本書紀』において応神天皇から履中天皇までの3代（約130年間）にわたり忠誠を尽くした人物として描かれています。しかし、その事績は父である武内宿禰と酷似していることから、政治的に作られた伝承的人物であるという見方が一般的です。

平群木菟と仁徳天皇の命名に関する易名説話は、天皇家と武内宿禰および平群氏との君臣関係の締結を示すものと考えられています。また、出産時の説話は、ミミズクやミソサザイが霊魂を運ぶ存在として描かれているものの、実際に出産時に鳥が入り込むことはあり得ないため、古墳時代の出産における鳥形呪具の使用が伝承成立の背景になったとする説があります。命名伝承からは、平群氏を含む武内宿禰後裔氏族が食膳奉仕に関わったとする説も存在します。

このように、平群木菟は古代日本の歴史において重要な人物である一方で、その実像は多くの謎に包まれています。今後の研究によって、さらに詳しいことが解明されることが期待されます。

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