阿知使主

阿知使主（あちのおみ）とは

阿知使主は、3世紀から4世紀頃、または5世紀前半に活躍したとされる渡来人で、東漢氏（やまとのあやうじ）の祖とされています。記紀には、仁徳天皇の時代の記述はなく、応神天皇と履中天皇の時代に活躍したと伝えられています。阿智直（あちのあたい）、阿智使主、阿知王、阿知吉師などの別名でも知られています。

渡来の背景

『日本書紀』によると、応神天皇20年（289年）に、阿知使主は、その子である都加使主（つかのおみ）とともに、17県（あがた）の同族を率いて日本に渡来したとされています。

『続日本紀』によれば、阿智王は後漢の霊帝の曾孫であり、東方に聖人君子がいると聞いて、七姓民（しちせいみん）と共に日本にやってきたとされています。この記述は、東漢氏の末裔である坂上苅田麻呂によって語られました。

『新撰姓氏録』には、阿知使主が連れてきた七姓漢人として、朱、李、多、皀郭、皀、段、高の各氏族の名前が記されています。これらの氏族は、それぞれが日本において様々な職務や役割を担い、後の社会に大きな影響を与えたとされています。

さらに、『新撰姓氏録』によると、阿知使主は多くの百姓漢人を招致し、その子孫は高向村主、西波多村主、平方村主など、各地の有力な氏族の祖となりました。

阿知使主の一族は、大和国今来郡、のち高市郡檜前郷に居住し、民忌寸、蔵垣忌寸などの人々が郡司に任ぜられました。その後、摂津、三河、近江、播磨などにも移住し、その影響力を広げました。

略歴

『日本書紀』によれば、応神天皇37年（西暦300年代後半）に、阿知使主は呉国（中国南部）に派遣され、4人の縫製女工を連れて帰国したとされています。また、履中天皇の時代には、住吉仲皇子の反乱の際に、天皇を救出したという功績も伝えられています。

親族と末裔

阿知使主には、都加使主、坂上志拏直、東漢爾波伎直の3人の息子がいました。

都加使主は、東漢山木直の父となり、その子孫から、民氏、檜原氏、平田氏など、多くの氏族が生まれました。
坂上志拏直は、坂上阿素奈直、坂上志多直など、7人の息子をもうけ、これらの子孫から、田部氏、黒丸氏、林氏など、多数の氏族が生まれました。
東漢爾波伎直からは、山口氏、文山口氏、桜井氏などが派生しました。

伝説と史実

阿知使主の存在については、伝説的な側面も指摘されています。鈴木靖民は、阿知使主が倭漢氏によって作られた渡来伝承上の人物である可能性を示唆しています。また、門脇禎二は、東漢氏が複数の小氏族からなる複合氏族であり、共通の先祖伝承によってまとまっていったという見解を述べています。

一部の研究者は、半島系の土着民が、自らの権威を示すために東漢氏を名乗ったケースも多かったと指摘しています。秦氏も同様に、百済や新羅から渡来した人々が、中国の秦国との関連を主張したとされています。

阿知使主ゆかりの寺社

猪名津彦神社（大阪府池田市）：阿知使主と都加使主を祭神とし、その墓所とされています。
於美阿志神社（奈良県高市郡明日香村）：阿知使主を祭神としています。
檜隈寺：東漢氏の氏寺です。
阿智神社（岡山県倉敷市）：阿知使主一族が吉備国に技術を提供したという伝承があります。

まとめ

阿知使主は、古代日本の歴史において重要な役割を果たした渡来人であり、東漢氏の祖として、多くの氏族のルーツを形作りました。その伝説的な要素と史実が混ざり合った存在は、日本の古代史を理解する上で欠かせない人物です。彼がもたらした技術や文化は、その後の日本の社会発展に大きく貢献しました。

参考資料

竹内理三「古代帰化人の問題−漢氏についての覚え書き」1948年(『古代から中世へ』上、吉川弘文館、1978年所収）
関晃「倭漢氏の研究」『史学雑誌』62巻9号、1953年。
伊藤信博「桓武期の政策に関する一分析（1）」名古屋大学『言語文化論集』 v.26, n.2, 2005, p.3-40

関連事項

漢氏
東漢氏
坂上氏
七姓漢人
* 司馬曹達（倭王讃の使者、応神天皇と同一人物説あり）

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