平野義太郎:激動の時代を生きた法学者、思想家、そして平和運動家
平野義太郎(1897-1980)は、20世紀日本の激動期を生き抜き、
マルクス主義法
学者、中国現代史研究者、そして熱心な平和運動家として多大な影響を与えた人物です。その生涯は、特権階級に生まれた出自、学究としての輝かしいキャリア、
治安維持法違反による投獄と
転向、戦後の平和運動への尽力、そして晩年の複雑な政治状況まで、ドラマチックな展開に満ち溢れています。
裕福な出自と揺れる思想
1897年、東京で生まれた平野は、
建築家平野勇造を父に、実業家平野富二を祖父にもつ名家の子息でした。しかし、平野勇造は後に平野家から離縁されたため、義太郎は祖母の影響下で育ちました。東京開成中学校、第一高等学校を経て、
1921年には東京帝国大学
法学部を卒業し、同大学助手、助教授へと昇進。この頃、実業家安場末喜の娘と結婚し、華麗なる一族との繋がりをさらに深めました。
当初は
民法やゲルマン法を研究していましたが、1920年代後半にはフランクフルト大学に留学。そこで
カール・ウィットフォーゲルや
ヴィルヘルム・ヴントといった著名な
学者から直接指導を受け、
マルクス主義思想に深く傾倒していきました。ドイツ共産党日本語部との交流もあったと伝えられています。
帰国後、平野は共産党シンパ事件に関与したとして
治安維持法違反で逮捕され、免官処分を受けました。その後、
野呂栄太郎らと『
日本資本主義発達史講座』を編集するなど、
講座派の論客として活躍。しかし、
1936年にはコム・アカデミー事件に巻き込まれ、長期間にわたる厳しい取り調べを受けました。他の容疑者が次々と
転向する中、当初は頑なに抵抗を続けたものの、結局は
転向を表明。
1937年に釈放されました。
この
転向劇は、平野の生涯における大きな転換点となりました。
転向後の彼は、戦時中には大東亜共栄圏を肯定する著作を発表するなど、その思想的変遷は複雑で、現在も様々な解釈がなされています。特に、
1945年に発表された『大
アジア主義の歴史的基礎』は、戦後の日本における
アジア主義研究において、再評価の対象となっています。この著作において、平野は日本のアジアにおける役割を独自の視点から論じていますが、その真意については、未だ議論が続いています。一部の研究者は、彼の
転向を偽装であり、共産化を阻止するための戦略だった可能性を示唆しています。
戦後と平和運動
戦後、平野は民主主義科
学者協会(民科)に参加し、日本学術会議会員、
日本中国友好協会副会長などを歴任。戦争責任を問われ教職追放となった後、復権を果たし、
1956年から20年間にわたって
日本平和委員会会長を務めるなど、平和運動の中心人物として活躍しました。しかし、晩年には共産党内での立場が弱まり、
1976年には
日本平和委員会会長を解任されています。
中国研究への貢献
平野は、中国研究にも大きな貢献をしました。中国研究所の創設や、現代中国学会の設立に携わり、長年にわたって中国の現代史研究をリードしました。しかし、
文化大革命の影響で中国研究所から除名されるなど、政治的状況の変化に翻弄される人生を送りました。
多彩な活動と晩年
龍谷大学法学部教授を務めるなど、学問の世界でも活躍した平野は、
1972年にはベトナム戦争への抗議集会を組織するなど、平和運動家としての活動も精力的に続けました。
1980年、結腸癌のため死去しました。
平野義太郎の生涯は、激動の時代を生き抜いた一人の知識人の物語であり、同時に、日本の近代史、思想史、そして平和運動史を理解する上で欠かせない重要な一章となっています。彼の複雑な思想、波乱に満ちた人生、そして多大な貢献は、これからも多くの研究者や市民によって考察され続けるでしょう。