年紀法

年紀法とは

年紀法（ねんきほう）は、中世の武家社会で発達した時効に関する法理です。年預法（ねんよほう）とも呼ばれます。この法理は、一定の年数を経過した土地の所有や占有状態を、真実の権利関係を問わず、正当な権利として認めるというものです。特に、御成敗式目によって「廿箇年知行」の原則が導入され、20年間の知行（土地の所有・占有に基づく権利の行使）が成立要件とされました。このため、「二十箇年年紀法」とも呼ばれることがあります。

年紀法の発生

「年紀」とは、もともとは単に「年数」を意味する言葉でしたが、時が経つにつれて、一定の年数が経過した後に発生する法的効果を指すようになりました。律令法には、権利取得や時効に関する規定がなく、平安時代の貴族は農村社会と隔絶した生活を送っていたため、年紀に関する法制は整備されませんでした。これは、律令法や明法家の学説を集めた『法曹至要抄』に年紀に関する記述がないことからも明らかです。しかし、院政期には、公家社会における土地訴訟において、証文の有無とともに「多年領掌」や「経年序」という考え方が存在していたことも指摘されています。

御成敗式目における年紀法

年紀法を明文化した最初の条文として知られているのは、『御成敗式目』第8条です。この条文では、鎌倉幕府から御下文（安堵状）を受けている土地であっても、実際に知行しないまま20年が経過した場合、源頼朝の先例に従って権利の正当性を問わず現状を維持すると定められています。ただし、知行していると偽って御下文を得た場合は、その主張は認められません。この条文は、土地の取得時効を定めたものとするのが通説ですが、知行を怠ったことによる消滅時効を定めたものとする異説も存在します。また、この条文が頼朝時代の法理に基づいているのか、それ以前からの慣習法なのか、あるいは頼朝以後に成立した法理を頼朝の名を借りて制定したものなのかについては、様々な意見があります。

『御成敗式目』第8条は、「多年領掌」や「経年序」という曖昧な法理から、具体的な年数（20年）を定めた点で画期的であり、特に承久の乱後に増加した御家人間の紛争を解決する上で重要な役割を果たしました。しかし、この規定は、鎌倉幕府が管轄する武家領での訴訟にのみ適用され、寺社領や公家領では直ちに適用されませんでした。これは、公家社会が年紀法に否定的な姿勢を示していたためと考えられていますが、御成敗式目第8条が単に武家社会の年紀法に関する考え方を示したに過ぎないという見方もあります。また、武家社会においても、地頭の所務に関しては年紀法は適用されませんでした。これは、地頭が年貢の納入を怠り、年紀を理由に土地を奪う行為を防ぐための措置でした。

年紀法の定着と消滅

「20年」の年紀法は、鎌倉時代末期には公家社会を含めて広く採用されるようになり、証文の有効期限（文書年紀）や訴訟の有効期限（訴訟年紀）にも応用され、中世の普遍的な法理として定着しました。室町幕府の法令や戦国大名の分国法でも20年を限度とする年紀法が採用されましたが、近世になると、幕府による土地支配体制が確立され、武士の所領は恩給地となり、農民の耕地は検地帳に登録・管理されるようになったため、年紀法が適用される余地はなくなりました。

人身に関する年紀法

土地に関する年紀法とは別に、『御成敗式目』第41条には、奴婢や雑人については10年放置すれば無効になるという規定があります。これは、捨て子を拾って育てた場合や、譜代の下人が逃亡した場合などを想定したもので、江戸幕府にも引き継がれ、人身の永代売買を禁止するとともに、譜代下人の年紀は最大10年とされました。

まとめ

年紀法は、中世の社会において、土地や人の権利関係を安定させる上で重要な役割を果たしました。特に、御成敗式目によって明確化された「廿箇年知行」の原則は、後の武家社会における法制度の基礎となりました。

参考文献

森田悌「年紀」（『平安時代史事典』（角川書店、1994年） ISBN 978-4-04-031700-7）
石井紫郎「年紀法」（『日本史大事典 5』（平凡社、1993年） ISBN 978-4-582-13105-5）
牧英正「年紀法」（『国史大辞典 11』（吉川弘文館、1990年） ISBN 978-4-642-00511-1）
新田一郎「廿箇年年紀」（『歴史学事典 9 法と秩序』（弘文堂、2002年） ISBN 978-4-335-21039-6）

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