康富記

『康富記』（やすとみき）は、室町時代に外記局の官人として活躍した中原康富によって記された日記です。この日記は、応永8年（1401年）から康正元年（1455年）までの期間を網羅していますが、残念ながらその多くが散逸しており、特に永享年間（1429年-1441年）の記述はほぼ全てが失われています。また、応永8年の日記については、康富の経歴や年齢から判断すると、彼の父である中原英隆が執筆したと考えられており、康富自身が筆を執ったのは応永22年（1415年）からとされています。

『康富記』には、当時の幕府をはじめとする武家の動向、隼人司、主水司、大炊寮といった各々の所領の経営状況について詳細に記述されています。さらに、和歌、連歌、猿楽といった文化や芸能に関する記述も豊富に含まれており、15世紀前半の社会情勢や有職故実を研究する上で、非常に貴重な情報を提供してくれる史料です。朝廷の会議（朝議）や官職の任命（除目）、位階の授与（叙位）に関する記述では、関係文書が貼り継がれて補填されている箇所も多く見られます。

日記の欠落部分を補うための文書としては、「永享二年大賞会記」や「永享十年八幡宮放生会記」などが存在します。これらの文書も合わせて研究することで、『康富記』の記述をより深く理解することができます。

現在、『康富記』の原本は93巻が国立国会図書館に所蔵されており、デジタルアーカイブとして公開されているものもあります。

特筆すべき記述として、文安6年（1449年）5月条には、当時世間を騒がせた「白比丘尼」に関する記述があります。この白比丘尼は、200歳以上という高齢の白髪の尼で、若狭から京に上洛したとされています。この尼は、『臥雲日件録』では八百比丘尼と同一人物であると解釈されています。白比丘尼は、見世物として人々から料金を取っており、八百比丘尼伝説を利用した芸能者であったと考えられています。当時、比丘尼伝説は尼の布教活動にも利用されていた背景があります。

『康富記』は、15世紀前半の社会、政治、文化、芸能、宗教など、多岐にわたる分野の研究に不可欠な史料であり、当時の人々の生活や考え方を知る上で、非常に重要な役割を果たしています。

参考文献

『国史大辞典 14巻』
『日本史大事典 6巻』
『世界大百科事典 28巻』

外部リンク

『康富記【全号まとめ】』 - 国立国会図書館デジタルコレクション

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