弦楽四重奏曲第1番 (チャイコフスキー)

弦楽四重奏曲第1番 ニ長調 作品11 (チャイコフスキー)

ピョートル・チャイコフスキーによって1871年2月に作曲された弦楽四重奏曲第1番は、彼の初期の室内楽作品として重要な位置を占めています。全4楽章から構成され、演奏時間はおよそ30分です。作品番号は11、献呈は作曲者の友人であり、植物学者・アマチュアの台本作家であったセルゲイ・ラチンスキーに捧げられました。

初演は1871年3月28日にモスクワ貴族会館小ホールにて、ロシア音楽協会（モスクワ支部）弦楽四重奏団によって行われました。初演時のチェロ奏者ヴィルヘルム・フィッツェンハーゲンは、後にチャイコフスキーの『ロココの主題による変奏曲』を初演したことでも知られています。

作曲の経緯

1865年にサンクトペテルブルク音楽院を卒業後、チャイコフスキーはニコライ・ルビンシテインの要請でモスクワ音楽院の教師に就任しました。教鞭を執る傍ら作曲活動も行っていましたが、生活は決して楽ではありませんでした。しかし、徐々に作曲家としての実力と評価を高めていく中で、ルビンシテインはチャイコフスキーに自作によるコンサートの開催を勧めます。小ホールでの演奏会を想定し、プログラムを組むために曲数が足りなかったため、急遽作曲されたのがこの弦楽四重奏曲第1番でした。

チャイコフスキーの室内楽曲

チャイコフスキーは、生涯で3曲の弦楽四重奏曲を作曲しており、そのすべてをモスクワ音楽院で教師を務めていた1870年代に作曲しています。その他には、サンクトペテルブルク音楽院の学生時代に習作として書かれた変ロ長調の弦楽四重奏曲の1楽章のみが残されています。

弦楽四重奏曲以外では、ニコライ・ルビンシテインの死を悼んで作曲されたピアノ三重奏曲「ある偉大な芸術家の思い出のために」が有名で、頻繁に演奏されます。また、弦楽六重奏曲「フィレンツェの想い出」も時折演奏されることがあります。

エピソード

1876年12月、レフ・トルストイがモスクワ郊外の領地ヤースナヤ・ポリャーナから久しぶりにモスクワを訪れた際、ニコライ・ルビンシテインは彼を歓迎するために特別音楽会を催しました。この音楽会で弦楽四重奏曲第1番も演奏され、第2楽章「アンダンテ・カンタービレ」が演奏された時、チャイコフスキーの隣に座っていたトルストイは感動のあまり涙を流したと伝えられています。

チャイコフスキー自身も、この出来事を10年後の1886年7月2日の日記に「あの時ほど、喜びと感動をもって作曲家として誇りを抱いたことは、おそらく私の生涯に二度とないであろう」と記しています。

構成

この弦楽四重奏曲は、第2楽章「アンダンテ・カンタービレ」があまりにも有名ですが、他の楽章にも美しい旋律が多く、チャイコフスキーらしい情熱的な展開が魅力です。各楽器の扱いは管弦楽の縮図のような筆致を見せ、時には大仰に感じられることもありますが、それがまた型破りな効果を生み出しています。

第1楽章 Moderato e semplice ニ長調 9/8拍子
息の長い第1主題で始まるソナタ形式。提示部に反復指定があるのは、チャイコフスキーの作品としては珍しい。テンポを上げた華麗な終わり方が印象的です。
第2楽章 Andante cantabile 変ロ長調 2/4拍子
中間部をもとにしたコーダを伴う三部形式。冒頭の有名な旋律は、チャイコフスキーがウクライナのカミャンカで聴いた民謡に題材を得ています。
第3楽章 Scherzo (Allegro non tanto e con fuoco) ニ短調 3/8拍子
活気に満ちたスケルツォ楽章です。
第4楽章 Finale (Allegro giusto) ニ長調 2/4拍子
ロシアの民俗舞曲風の第1主題をもつソナタ形式。憂鬱なアンダンテの部分をはさみ、激しいフィナーレに向かいます。

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