弦楽四重奏曲第14番 (シューベルト)

弦楽四重奏曲第14番 ニ短調 D 810「死と乙女」

フランツ・シューベルトが1824年3月に作曲した弦楽四重奏曲第14番ニ短調D810は、彼の弦楽四重奏曲の中でも特に重要な作品の一つであり、その中でも第2楽章が自身の歌曲『死と乙女』(作品7-3, D 531)に基づいていることから、『死と乙女』（ドイツ語: Der Tod und das Mädchen）の愛称で広く親しまれています。

作曲の背景

この曲は、前作の『第13番 イ短調《ロザムンデ》』（作品29, D 804）とほぼ同時期に作曲されましたが、当時のシューベルトは、梅毒の発症による神経衰弱で入退院を繰り返すなど、心身ともに苦境に立たされていました。また、出版契約での金銭トラブルや、オペラ作曲家としての度重なる失敗も重なり、経済的にも困窮していました。しかし、そのような状況下でも創作意欲は衰えず、本作は彼の内面の葛藤や絶望が色濃く反映された作品となっています。

初演は、シューベルトの死後5年が経過した1833年3月にベルリンで行われました。楽譜は1831年にウィーンで出版されています。現在、自筆譜はニューヨークのモルガン・ライブラリーに所蔵されています。

曲の構成

全4楽章構成で、演奏時間は約40分です。

第1楽章 アレグロ
ニ短調、4分の4拍子、ソナタ形式。
ブルックナーを予感させる3つの主題が現れます。シューベルトの室内楽作品の中でも最大規模を誇り、重要な位置を占める楽章です。
第2楽章 アンダンテ・コン・モート
ト短調、2分の2拍子（アラ・ブレーヴェ）、変奏曲形式。
歌曲『死と乙女』のピアノ伴奏部分を主題としており、5つの変奏とコーダが続きます。最後はト長調の主和音で静かに終わります。
第3楽章 スケルツォ：アレグロ・モルト - トリオ
ニ短調 - ニ長調、4分の3拍子、複合三部形式。
スケルツォというよりはレントラーに近い雰囲気で、中間部はニ長調に転調します。
第4楽章 プレスト - プレスティッシモ
ニ短調、8分の6拍子、ロンドソナタ形式。
タランテラ風の激しいフィナーレで、コーダで長調に転じますが、最後は再び短調の和音で締めくくられます。

編曲

本作は、その人気から様々な編曲がなされており、ピアノ連弾版や管弦楽版などが存在します。特に有名なものとしては、グスタフ・マーラーが弦楽合奏用に編曲した版が挙げられます。マーラーによる編曲版は、第2楽章のみが完成しており、他の楽章は草稿のみが残されていました。その後、デイヴィッド・マシューズとケネス・ウッズによって補筆完成された版が出版されています。

その他の影響

本作は、音楽以外の分野にも影響を与えており、アリエル・ドーフマンによる戯曲『死と乙女』や、ロマン・ポランスキー監督の映画『死と処女』など、本作をモチーフにした作品が生まれています。

この曲は、シューベルトの苦悩や死への恐怖といった感情が込められた傑作であり、彼の内面世界を深く理解する上で欠かせない作品と言えるでしょう。

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