張一鵬

張一鵬（ちょう いちほう）

張一鵬は、中華民国の政治家であり、法学者としても知られています。彼は、北京政府、そして後に南京国民政府（汪兆銘政権）において重要な役割を果たしました。字は雲搏（あるいは雲博）といい、兄の張一麐もまた政治家として活動していました。

生涯

初期の活動

張一鵬は、南洋公学で学びましたが、卒業には至りませんでした。その後、兄である張一麐が設立した蘇学社に加わりました。1893年（光緒19年）には、癸巳科挙人となります。さらに、日本に留学し、1906年（光緒32年・明治39年）6月に法政大学法政速成科第二班を卒業しました。この時の同期には、後に著名な政治家となる汪兆銘（汪精衛）や李文範、胡漢民、古応芬、孫潤宇などがいました。

帰国後、張一鵬は法部主事、京師地方検察庁庁長、呉江地方検察庁庁長、雲南高等検察庁検察長といった様々な役職を歴任しました。雲南から帰郷した後は、『時事新報』の主編を務めました。

中華民国成立後

中華民国が成立すると、張一鵬は江蘇司法籌備処処長や北京政府の平政院評事兼第三庭庭長となりました。しかし、1913年（民国2年）には、江蘇省内の36か所の初級審検庁を廃止しようとしたことが原因で、省内各層からの強い反発を受けました。また、宋教仁暗殺事件の処理を巡り、最終的に辞任を余儀なくされました。

1917年（民国6年）8月には、江西省財政庁庁長に就任し、同年12月には、北京政府中央の署理司法部次長に昇格しました。1920年（民国9年）7月には、薩鎮氷臨時内閣で司法総長代理を務めました。この時期には、東呉大学の教授も兼任しています。

1927年（民国16年）3月、国民革命軍が蘇州に呉県臨時行政委員会を設置すると、張一鵬はその主席兼民政局長となりました。しかし、同年6月には早くも辞任し、その後は上海で弁護士として活動しました。

汪兆銘政権下での活動

1943年（民国32年）12月、張一鵬は南京国民政府（汪兆銘政権）において、司法行政部長に任命されました。しかし、翌年7月14日、監獄を視察中に感染した発疹チフスが原因で亡くなりました。享年72歳でした。

汪兆銘政権における言動・姿勢

張一鵬は、汪兆銘政権に参加した人物として、その行動と姿勢が注目されます。彼は、日本占領地域である淪陥区において、汪兆銘政権の一員として日本側と渡り合った人物として、李思浩と共に金雄白（周仏海の腹心）から評価されています。金は、張一鵬を「剛強の天性」を持つ人物と評し、李思浩の「優容」な人柄とは対照的であると述べています。

当時の駐華日本大使は、汪兆銘政権の基盤を強化するために、中国東南部で声望の高い張一鵬を政権に引き込むよう汪兆銘側に提案していました。そこで、張一鵬と同郷である陳彬龢（上海市新聞聯合会理事長）が説得役を務めました。当初、この勧誘に対して激怒した張一鵬でしたが、陳彬龢が「日本側の憲兵により収監された600人余りの『重慶の地下工作の愛国者』を救えるのは他にいない」と説得したことで、最終的に汪兆銘政権への参加を決意しました。

司法行政部長に就任する前、張一鵬は上海のキャセイ・ホテルで各界の人々に対し、報告会を開催しました。その際、彼は「在任は6か月限りである」「人々は汪兆銘政権を伝染病のように扱っているが、自分はマスクをして行くから感染することはない」などと発言し、汪兆銘らを公然と非難しました。しかし、汪兆銘自身はこれらの発言や周囲の不快な反応を問題視せず、張一鵬の人事を撤回しませんでした。

司法行政部長に就任した張一鵬は、直ちに日本側との交渉を開始し、重慶側の地下工作員を次々と釈放させました。その一方で、司法行政界の綱紀粛正にも力を尽くし、各地の監獄を実地調査しました。しかし、激務が祟ったのか、発疹チフスに感染し、その生涯を閉じました。

まとめ

張一鵬は、激動の時代を駆け抜けた政治家であり、法学者でした。彼は、その生涯を通して、法曹界の発展と人々の救済に尽力しました。特に汪兆銘政権下での活動は、賛否両論ありますが、彼の信念と行動は、歴史の中で重要な意味を持っています。

参考文献

徐友春主編『民国人物大辞典 増訂版』河北人民出版社、2007年。ISBN 978-7-202-03014-1。
劉寿林ほか編『民国職官年表』中華書局、1995年。ISBN 7-101-01320-1。
金雄白著、池田篤紀訳『同生共死の実体 汪兆銘の悲劇』時事通信社、1960年。
法政大学大学史資料委員会編『法政大学史資料集 第11集 (法政大学清国留学生法政速成科特集)』法政大学、1988年。

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