張安世

張安世（ちょう あんせい）

張安世は、紀元前62年に没した前漢時代の人物で、字を子孺といい、京兆尹杜陵県（現在の陝西省西安市雁塔区曲江街道三兆村の北西）の出身です。彼は、悪名高い酷吏として知られた御史大夫・張湯の子であり、掖庭令の張賀の弟、そして張千秋と張延寿の父でもあります。武帝、昭帝、宣帝の三代にわたり仕え、その才能を発揮しました。

略歴

張安世は、父の功績により郎として官界に入り、尚書に任命され昇進を重ねました。ある時、武帝が巡幸中に大切な書籍を紛失してしまいます。偶然にも張安世はその内容を暗記しており、武帝のために全て暗唱しました。この功績により、彼は尚書令に抜擢されるという栄誉に浴しました。

武帝の崩御後、末子の劉弗陵（昭帝）が即位すると、張安世は右将軍・光禄勲に任命されました。大司馬大将軍の霍光からの信頼も厚く、富平侯に封じられます。紀元前74年に昭帝が崩御し、昌邑王劉賀が即位すると、霍光の命により張安世は車騎将軍・光禄勲となり、近衛兵を率いて昌邑王の300名の家臣を逮捕しました。

その後、霍光と張安世らは宣帝を擁立します。紀元前68年に霍光が亡くなると、宣帝は権勢を振るった霍氏の勢力を弱めるため、一時的に張安世を解任しますが、宣帝からの信頼は揺るがず、すぐに大司馬衛将軍に任命され、衛尉・城門・北軍の兵を掌握しました。

宣帝が霍光と同乗した際は、肩がこわばり表情も硬かったと言われていますが、霍光の死後、張安世と並んで馬車に乗る際は、リラックスして穏やかな表情であったという逸話が残っています。

紀元前62年に亡くなると、敬侯の諡号が贈られました。張安世は宣帝から絶大な信頼を得て権力を握りましたが、常に謙虚な姿勢を保ち、目立つことを避けようとしました。国政の重要な決定への関与を隠したり、自身や一族への恩恵を辞退することも度々ありました。

末裔

子の張延寿（愛侯）が富平侯を継ぎました。その後、張延寿の子である張勃（繆侯）、孫の張臨（共侯）、曾孫の張放（思侯）と、富平侯の地位は世襲されました。しかし、王莽の時代になると張郷侯に降格されました。張放の子である張純は、後漢の劉秀に仕え、武始侯に改めて封じられました。張純の死後、子の張奮が跡を継ぎ、孫の張甫、曾孫の張吉と続きましたが、張吉に後継者がいなかったため、張安世以来の列侯の系統は途絶えることとなりました。

参考文献

* 班固著『漢書』巻18外戚恩沢侯表、巻19下百官公卿表下、巻59張安世伝

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