張弘略

張弘略（ちょう こうりゃく）

張弘略は、モンゴル帝国に仕えた漢人世侯の一人であり、保定の大軍閥を率いた張柔の息子として知られています。字は仲傑。彼は、父の地位を継承しましたが、クビライ政権の漢人世侯解体政策の影響を受け、軍事指揮権を失いました。その後は、主に内政面で活躍し、その能力を発揮しました。

生涯

張弘略は、経史に通じ、騎射も得意とする文武両道の人材であったと伝えられています。1255年、モンケ・カアンの下に入朝し、権順天万戸の地位を授けられました。モンケの四川親征に従軍しましたが、遠征中にモンケが急死。その後、弟のクビライが第5代皇帝として即位しました。

クビライの配下にあった張柔は、地位を保証され保定路総管の職にありましたが、高齢のため1261年に引退。張弘略が地位を継ぎ、順天路管民総管・行軍万戸の職を授けられ、亳州の駐屯軍を統べることになりました。

1262年、李璮の叛乱が発生すると、南宋の夏貴が呼応して北上。張弘略は水軍を率いてこれを撃退するため出陣しました。水陸双方から夏貴の拠る蘄州に侵攻したところ、南宋軍はモンゴル軍を恐れて戦わずして退却。張弘略は失地のほとんどを取り戻しました。

李璮の処刑後、李璮と書簡をやり取りしていた漢人世侯たちが問題視されましたが、張弘略のみはモンゴルへの忠義を勧める文書しか残っておらず、追及を受けることはありませんでした。しかし、李璮の叛乱を機に、クビライ政権は漢人世侯の解体を決定。張弘略も軍団の指揮官としての職を解かれ、朝廷に召喚され、ジスン宴の運営に携わるよう命じられました。

1266年、大都の造営が始まると、父とともにこれに携わり、築宮城総管の地位を授けられました。1271年には、朝列大夫・同行工部事・兼領宿衛親軍・儀鸞等局の地位を授けられ、1276年には大都が完成すると、中奉大夫・淮東道宣慰使の地位を得ました。

1277年、南宋領の平定に派遣され、主に船による食糧の輸送に携わりました。1279年には、江西宣慰使の地位に移りましたが、饒州の盗賊が都昌を攻撃する事件が発生。張弘略は盗賊の本拠地を攻め、賊酋を処刑することで盗賊団を解体しました。そして、「兵を指揮していた者でなければ皆平民であり、余罪を追及することはない」と述べ、民心を安定させました。

晩年は病を患い亳州に帰りましたが、1292年にクビライに謁見し、息子の張玠を宿衛に入れることを請願し、受け入れられました。クビライは張弘略に酒を賜り、河南行省参知政事の地位を授けましたが、1296年に亡くなりました。

張弘略は、モンゴル帝国における漢人世侯の一人として、軍事・内政両面で貢献し、クビライからの信任も厚かった人物として知られています。

参考文献

愛宕松男『東洋史学論集　4巻』三一書房、1988年
藤野彪／牧野修二編『元朝史論集』汲古書院、2012年
野沢佳美「張柔軍団の成立過程とその構成」『立正大学大学院年報』第3号、1986年
『元史』巻147列伝34張弘略伝
* 『新元史』巻139列伝36張弘略伝

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