張弘範

張弘範（ちょう こうはん）

張弘範（1238年 - 1280年）は、モンゴル帝国に仕えた漢人将軍です。字は仲疇（ちゅうじゅう）。保定の大軍閥である張柔の息子として生まれ、南宋残党の平定戦で活躍しました。

生涯

張弘範は、父・張柔の九男として生まれました。軍事の才能だけでなく、歌や詩にも長けており、文武両道の人として知られていました。1260年代初頭には御用局総管の地位を授かり、1262年には行軍総管として、父と共に李璮（りがん）の乱の討伐に派遣されました。この時、張柔は張弘範に対し、危険を恐れず武功を挙げるようにと励ましたと伝えられています。

李璮の乱での活躍

済南城の西に布陣した張弘範は、敵の奇襲を予見し、長塁と濠を築いて伏兵を潜ませました。予想通り李璮軍が奇襲を仕掛けると、伏兵によって李璮軍を撃退し、賊将2名を捕虜にするという功績を挙げました。父・張柔は、この功績を称え「真に我が子である」と喜んだと言われています。

しかし、李璮の乱鎮圧後、クビライ政権は漢人世侯の権力削減を図り、張弘範は官位を失うこととなりました。その後、1264年に兄の張弘略が宿衛に入ることになったため、代わりに順天路を管轄する地位を与えられ、1265年には大名路に移りました。大名路では、大雨による倉庫の水没に対し、独断で租税を減免しましたが、後に朝廷から問題視されました。しかし、張弘範は「民が死に絶えてしまえば、来年の租税を徴収できない」と説明し、クビライを納得させました。

南宋攻略

1269年、南宋領の襄陽攻めに際し、張弘範は益都淄萊等路行軍万戸に任じられ、李璮の旧兵を率いることになりました。襄陽包囲戦では鹿門堡を守り、南宋軍の兵站を絶ち、郢州からの援軍を防ぐ任務を担いました。彼は万山に城を築き、1千の兵を率いて駐屯し、南宋軍の来襲に備えました。南宋軍が来襲すると、籠城を主張する将兵に対し、敢えて城外での決戦を挑み、勝利を収めました。

1271年には一字城を築いて襄陽城を包囲し、1272年の樊城攻めでは流れ矢に当たるほどの激戦の中、水陸双方からの攻撃を進言し、樊城を陥落させました。この功績により、錦衣・白金・宝鞍が下賜されました。

1274年からはバヤンを総司令とする南宋攻略に従軍し、左翼軍に属して漢江を進み、郢西・武磯堡を攻略しました。丁家洲の戦いでは先鋒を務め、南宋軍を潰走させる活躍を見せました。1275年、江南への侵攻を進言し、バヤンもこれに同意しました。

瓜州を拠点とした際には、揚州都統の姜才の攻撃を受けましたが、アジュと共にこれを撃退し、焦山での戦いでも南宋軍を破りました。これらの功績により、亳州万戸の地位と「バアトル」というモンゴル語の称号を与えられました。

その後、張弘範は南宋の首都臨安に接近し、南宋朝廷とモンゴル軍の交渉を仲介しました。その尽力により南宋朝廷は降伏し、1276年には台州で起こった叛乱の鎮圧に派遣されました。1277年に南宋遠征軍が凱旋すると、鎮国上将軍・江東道宣慰使の地位を授けられました。

崖山の戦いと南宋の滅亡

1278年、張弘範は広王昺（祥興帝）を擁して抵抗を続ける南宋残党の平定のため、蒙古漢軍都元帥に任じられました。当初、彼は漢人がモンゴル兵を率いる前例がないとして元帥の地位を譲ろうとしましたが、クビライは過去の失敗を繰り返さないために張弘範を任命するのだと説明し、彼もこれを受け入れました。クビライから剣を与えられ、「命令に従わない者がいれば、これで処刑せよ」と命じられました。

1279年、崖山の戦いにおいて、張弘範は南宋残党軍を破り、南宋を滅亡させました。張世傑は逃亡しましたが、その後亡くなり、他の残党は降伏しました。張弘範は崖山にこれを記念する碑文を残しました。

晩年

1279年10月に帰還し、クビライから厚い慰労を受けましたが、間もなく病にかかり、1280年に43歳で亡くなりました。臨終の際には、クビライから下賜された剣と甲冑を息子に与え、「汝の父はこれで功績を立ててきた。汝もこれを佩服し忘れることがないように」と遺言を残したと伝えられています。

張弘範は、南宋攻略における数々の戦功により、モンゴル帝国における地位を確立し、その名を歴史に刻みました。

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