徳川女系図

映画『徳川女系図』の詳細解説

『徳川女系図』は、1968年に公開された日本の映画で、東映が製作・配給を行いました。監督は石井輝男、主演は吉田輝雄が務めています。この作品は、大手映画会社が初めて製作した本格的なピンク映画として、当時の映画界に大きな衝撃を与えました。同時上映は若山富三郎主演の『前科者』でした。

概要

この映画は、東映が初めて手がけたピンク映画であり、実質的な「東映ポルノ」のスタート地点となりました。石井輝男監督の「異常性愛路線」と呼ばれるエログロ映画の第1作目としても知られています。従来の映画とは一線を画し、性的な描写を前面に押し出した作品として、公開当時から大きな話題を呼びました。

あらすじ

物語の舞台は徳川五代将軍・綱吉の時代。大奥というハーレムで、綱吉は欲望のままに乱行を繰り返しています。大奥の女たちは、常盤井を中心とする御台所派と、お伝の方を中心とする二派に分かれて激しく対立しており、その対立は日ごとに深まっていきます。綱吉の乱れた行いはますますエスカレートし、物語は過激な展開を迎えます。

製作経緯

この映画の企画は、後の東映社長となる岡田茂プロデューサーによって進められました。岡田は、当時「任侠映画」に続く新たなジャンルを模索しており、独立プロが製作する低予算のエロ映画（ピンク映画）に目をつけました。原作は岩崎栄の小説ですが、タイトルのみを拝借したもので、内容は大きく異なっています。

岡田は、天尾完次プロデューサーに製作を指示し、石井輝男監督にメガホンを託しました。当時、石井監督は高倉健主演の人気シリーズ『網走番外地』を手がけていましたが、「何か別の事をやりたい」という思いから、この企画に乗り気になったと言われています。

メジャー映画会社初のピンク映画

それまで大手映画会社もエロティックな映画を制作していましたが、それらはあくまで一部に性的描写が含まれる程度で、ヌードやセックスシーンをメインにした作品ではありませんでした。1960年代に入り、独立プロが性描写をメインとしたピンク映画を量産するようになり、大手映画会社はこれに手を出すことに抵抗感がありました。しかし、東映の岡田プロデューサーは、その一線を越え、専属女優以外のピンク映画女優を多数起用することで、大手映画会社初のピンク映画を製作しました。

岡田は当初、この路線を「刺激性路線」と名付けていました。

製作の背景

石井輝男監督は、人間と性の深い関わりというテーマに以前から興味を持っており、ピンク映画を観たことがなかったにもかかわらず、「予備知識なしで自分流の成人映画を作ろう」という意気込みで製作に臨みました。また、菊池寛の『忠直卿行状記』を物語の核にしたと述べています。

興行成績とその後

この映画は、それまでにはなかった女性の裸が満載だったため、大きな話題を呼びました。一方では、「女性を侮辱している」という批判も浴びましたが、結果的に大ヒットを記録し、3000万円の製作費に対し、1億円以上の興行収入を上げたとされています。岡田プロデューサーは、完成した作品に対して「予想よりおとなしい」という印象を持ったようですが、これは序の口に過ぎませんでした。

石井監督は、岡田プロデューサーの意図を大胆に表現し、ヌードやセックスシーンに加え、サドマゾ、拷問、処刑といったグロテスクな描写を加え、「異常性愛路線」をエスカレートさせていきました。

『徳川女系図』とその続編『徳川女刑罰史』の大ヒットを受け、岡田茂は常務取締役に就任し、1970年代半ばまで、任侠映画、実録映画とエロ映画の二本立て、三本立て興行を展開しました。

影響

「東映ポルノ」の成功は、当時テレビの台頭により観客減に苦しんでいた他の大手映画会社にも大きな影響を与え、次々とエロ路線に傾斜するきっかけとなりました。

スタッフ

監督：石井輝男
企画：岡田茂、天尾完次
原作：岩崎栄
脚本：内田弘三、石井輝男
撮影：吉田貞次
美術：矢田精次
編集：神田忠男
音楽：八木正生
助監督：荒井美三雄

キャスト

将軍綱吉：吉田輝雄
御台所信子：三浦布美子
万里小路：有沢正子
常盤井：国景子
染子：應蘭芳
おちか：高島和子
おたえ：富永佳代子
おさわ：一星ケミ
おかじ：火鳥こずえ
おゆき：加山恵子
おみつ：御影京子
お伝の方：三原葉子
雪岡：三島ゆり子
藤垣：三浦徳子
おさよ：賀川雪絵
おきぬ：谷ナオミ
おしの：辰巳典子
おりき：祝真理
おみね：三乃瀬愛
おまち：立花加幸
おつの：林三恵
柳沢出羽守：南原宏治
定子：内田高子
牧野備後守：小池朝雄
阿久里：小畑道子
照円：春美
桂昌院：喜多川千鶴
駒尾：牧淳子
お静：岡田千代
萩乃：小島恵子
おこと：小柳リカ
* おきく：星野美恵子

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