愚中周及

愚中周及は、元亨3年（1323年）に誕生し、応永16年（1409年）に世を去った、南北朝時代から室町時代にかけて活躍した臨済宗の僧です。美濃国（現在の岐阜県南部）の出身で、仏徳大通禅師という諡号を持っています。

幼少の頃、7歳で寺に入門し、13歳で都の臨川寺にいた夢窓疎石に師事して仏門に入りました。その後、夢窓疎石の高弟である春屋妙葩らからも教えを受け、比叡山で正式な戒を受けました。19歳となった暦応4年（1341年）、京都の建仁寺で高山慈照の上堂説法を聞いたことを契機に、元（中国）へ渡ることを決意します。そして、貿易船である天龍寺船に乗って、海を渡りました。

元に到着した愚中周及は、まず慶元路にある曹源寺の月江正印のもとを訪れ、その際に「愚庵」という道号を授けられました（後に自身で「愚中」と改めます）。次に鎮江路の金山寺へと移り、即休契了（佛通禅師）のもとで厳しい修行に励み、ついに悟りを開いてその法を受け継ぎました。およそ10年間の修行を終え、観応2年/正平6年（1351年）に日本への帰国を果たしました。

帰国後、博多に降り立った愚中周及は、前年に先に帰国し幕府の指示を待っていた留学僧の龍山徳見と共に京都へ向かいます。天龍寺に滞在していた師・夢窓疎石に対し、即休契了から印可を受け法を嗣いだことを、その弟子を通じて報告し、了解を得ました。既に高齢であった夢窓疎石は愚中周及を受け入れ、天龍寺への滞在を許しました。その頃天龍寺にいた元の僧、東陵永璵との通訳を愚中周及が務めることになります。まもなく、中国江南地方から帰国した僧から、元での師である即休契了が遷化したという悲報を聞かされました。そして同じ年、日本の師である夢窓疎石もこの世を去ります。多くの弟子たちが天龍寺を離れていきましたが、愚中周及は師の恩に報いるため、天龍寺の中の臨川寺に留まりました。

正平8年（1353年）、龍山徳見が南禅寺の住職に就任すると、愚中周及は書記として招かれ、その補佐を務めることになりました。龍山徳見の結制（修行期間）が行われた際、愚中周及が代わって説法を行うことになりますが、この時、彼が元の即休契了から嗣法したことについて批判を受けたため、遂に五山（京都の主要な禅寺）を離れることとなりました。これ以後、愚中周及が京都の地を踏むことはありませんでした。

都を離れた後は、各地を巡りながら山林での修行に専念しました。貞治4年（1365年）、丹波国の地頭であった金山宗泰が、愚中周及の高徳を聞き開山として招き、丹波国に天寧寺を開きました。愚中周及はここで多くの修行者を指導しました。

応永2年（1395年）頃には、日本各地を行脚していました。紀伊国（現在の和歌山県）の龍門庵から九州へ向かう途中、安芸国（現在の広島県三原市）に立ち寄った際、かねてより愚中周及の名声を知っていた武将の小早川春平が深く帰依しました。これにより、応永4年（1397年）、小早川春平を開基（寺を建てる費用を出した人）とし、愚中周及を開山（寺の最初の住職）として、佛通寺が創建されました。この寺の名称は、愚中周及が中国で師事した即休契了の道号である佛通禅師にちなんで名付けられています。

愚中周及の名声は遠く都にまで伝わり、時の将軍である足利義持もその高徳を知るに至りました。応永14年（1407年）、足利義持は使者を佛通寺に派遣し、愚中周及に法語（仏法の教えを記した言葉）を求めました。その後、この出来事を足利義持が後小松天皇に報告したことで、天皇から佛通寺が南禅寺と並ぶ紫衣地（朝廷から紫色の衣の着用を許される格式の高い寺院）とする旨の綸旨が下されました。

応永16年（1409年）8月、愚中周及は天寧寺にて示寂しました。世寿87歳でした。没後、朝廷より仏徳大通禅師という諡号が贈られました。遺骨は、開山した天寧寺と佛通寺の両寺に分骨され、それぞれに塔が建立されています。

愚中周及の著作としては、『佛徳大通禅師語録』（別名『丱余集』）が知られています。

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