成東・東金食虫植物群落

概要

成東・東金食虫植物群落（なるとうとうがねしょくちゅうしょくぶつぐんらく）は、千葉県山武市と東金市にまたがる湿原で、国の天然記念物に指定されています。この湿原は、モウセンゴケやミミカキグサといった食虫植物を中心に、多様な植物が生息する貴重な場所です。1920年（大正9年）に、日本で最初に国の天然記念物に指定された場所の一つであり、「珍奇または絶滅に瀕した植物の自生地」および「代表的な原野植物群落」としてその価値が認められました。

歴史

天然記念物指定以前

1904年（明治37年）には、すでに植物学雑誌でこの地域の植物の多様性が言及されており、食虫植物の種類の豊富さが指摘されていました。その後、植物学者の三好学らによる調査を経て、1920年7月17日に「成東町肉食植物産地」として、日本で最初の国の天然記念物の一つに指定されました。当初は盗掘を恐れて指定が公表されませんでしたが、後に不法採取が相次いだため、1932年（昭和7年）に正式に告示され、保護管理が始まりました。

指定後の変遷

1928年（昭和3年）の調査では、6種類の食虫植物が確認されました。また、園芸学者の石井勇義は7種類の食虫植物に加え、ウメバチソウやトキソウの生育も確認しています。しかし、植物学者の牧野富太郎は、保護のために柵で囲むことで大型植物が繁茂し、食虫植物が減少する可能性を指摘し、管理方法の見直しを提唱しました。

1932年（昭和7年）には、作田川の改修による乾燥化のため、群落の一部が天然記念物の指定から解除され、面積が縮小しました。さらに、第二次世界大戦後にも耕地化による面積減少が見られました。一方で、地元住民による保護活動も始まり、1970年（昭和45年）からは保護増殖事業が開始されました。

保護活動の展開

1970年（昭和45年）に開始された第1期保護増殖事業では、群落の実態調査や大型植物の除去、食虫植物の移植などが実施されました。1978年（昭和53年）には、名称が現在の「成東・東金食虫植物群落」に変更されました。1985年（昭和60年）からは第2期保護増殖事業が始まり、水環境の改善に重点を置いた整備が行われました。また、1987年（昭和62年）にはボランティア団体「成東・東金食虫植物群落を守る会」が結成され、植物の保護管理活動を行っています。2000年（平成12年）からは第3期の保護増殖調査が実施され、貴重な植物の増殖試験などが試みられました。

現在の状況

現在、群落は柵で囲まれ、観察路が整備されており、自由に散策できます。保護活動は継続されており、競争種の除去、湿性遷移の抑制、水位の維持などが行われています。

地理・地質的特徴

群落は九十九里平野の中央部に位置し、作田川沿いに広がっています。標高は4～5メートルの低地で、砂質の土壌が特徴です。この地域は、海水が退いて形成された砂地の海岸平野であり、泥炭が少なく栄養に乏しい鉱質土壌湿原です。このような環境が食虫植物の生育に適しており、また、人の手による草刈りも、大型植物の生育を抑制し、食虫植物の分布を助けたと考えられています。

群落内は海風と陸風の影響を受け、夏は海風が気温上昇を抑制する役割を果たしています。また、高水位で湿潤な環境が、気温の日較差を小さく保っています。

植生

群落には、モウセンゴケ科のイシモチソウ、ナガバノイシモチソウ、コモウセンゴケ、モウセンゴケ、タヌキモ科のミミカキグサ、ホザキノミミカキグサ、ムラサキミミカキグサ、イヌタヌキモの計8種の食虫植物が生育しています。その他にも、トキソウ、シラン、ノハナショウブなど、多くの植物が生息しており、コケ植物の生育地としても貴重です。群落全体の植物種数は300～450種に及び、その中には環境省のレッドデータリストに掲載されている貴重な種も含まれています。

モウセンゴケ科

モウセンゴケ科の植物は、腺毛から分泌される粘液で昆虫を捕獲します。イシモチソウは、乾燥した場所に見られ、5～6月に開花します。シロバナナガバノイシモチソウは、湿潤な場所に生息し、7～9月に白い花を咲かせます。コモウセンゴケは、へら形の葉を持ち、6～9月に淡紅色の花を咲かせます。モウセンゴケは、スプーン状の葉を持ち、6～7月に白い花を咲かせます。

タヌキモ科

タヌキモ科の植物は、捕虫嚢で小動物を捕獲します。ミミカキグサは、地下茎を巡らせ、7～10月に黄色の花を咲かせます。ホザキノミミカキグサは、ミミカキグサよりも乾燥に強く、8～10月に淡紫色の花を咲かせます。ムラサキミミカキグサは、3～5ミリメートルのへら形の葉を持ち、7～9月に淡紫色の花を咲かせます。イヌタヌキモは、水中に浮遊し、7～9月に黄色の花を咲かせます。

その他の維管束植物

クロタマガヤツリは、1950年代以降確認されていませんでしたが、再指定地区で近年確認されました。その他、帰化植物も確認されています。

コケ類

群落内では、38種のコケ植物が生育しています。特に、オオカギイトゴケとモグリゴケは貴重な種です。オオカギイトゴケは、葉先がカギ状に曲がった特徴を持ち、モグリゴケは、ハート形の小さな葉を持っています。

動物

群落内での動物調査は、1985年の昆虫相調査が主で、その後本格的な調査は行われていません。しかし、鳥類は28科59種が確認されており、その他、哺乳類、爬虫類、両生類、魚類、貝類、昆虫類、クモ類など、合計355種の動物が確認されています。

交通アクセス

- 所在地: 千葉県山武市島、同県東金市上武射田1874-5他
- 交通: 首都圏中央連絡自動車道山武成東インターチェンジから15分、JR東日本総武本線成東駅から徒歩30分

ギャラリー

(画像は省略)

脚注

(注釈、出典、参考文献、外部リンクは原文参照)

成東・東金食虫植物群落は、その独特な環境と生態系から、学術的にも非常に価値の高い場所です。今後も、この貴重な自然を保護し、後世に伝えていくことが重要です。

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