九十九里平野

九十九里平野は、房総半島北東部、九十九里浜の背後に広がる平野です。旭市、匝瑳市、山武郡横芝光町、山武市、東金市、九十九里町、大網白里市、茂原市、長生郡白子町、長生村、長南町、睦沢町、一宮町の6市6町1村に跨っており、その面積は約900平方キロメートルと、千葉県の約20%を占める広大な平野です。

地理

九十九里平野は、南北に約60キロメートル、東西に約10キロメートルにわたる海岸平野で、九十九里沖積低地とも呼ばれます。九十九里浜の海岸線に沿って、南西から北東に細長く延び、弧状に曲がった細長い長方形のような形をしています。北東端は旭市の刑部岬付近から、南端はいすみ市の太東崎付近までで、北側は下総台地、西側は房総丘陵に接しています。標高は最高点でも10メートル以下と非常に低く、海岸線と平行にいくつかの旧砂丘列が見られます。

平野となっている部分は、縄文海進後に海岸が後退してできたもので、中世以前は「玉の浦」と呼ばれていた海でした。現在でも、平野に散在する池沼にはわずかに塩分が残っており、内陸から海岸にかけて塩分濃度が勾配を示すことが知られています。しかし、現在は海岸の後退は止まっており、むしろ砂浜の減少が見られます。これは、堆積土砂の供給源である利根川の河川改修により、土砂の流下が減少したことや、屏風ヶ浦や大東崎での侵食防止策が影響していると考えられています。

気候

九十九里平野は、日本の太平洋側に位置する代表的な地域であり、温暖な気候が特徴です。特に、海岸沿いでは日較差や年較差が小さく、過ごしやすい気候となっています。ケッペンの気候区分とは別に、日本独自の区分では太平洋岸式気候に分類されます。都市部のようなヒートアイランド現象の影響も受けにくく、冬は暖かく、夏は涼しいため、避暑地や避寒地としても観光客に人気です。

資源

九十九里平野は、日本最大の水溶性天然ガス田である南関東ガス田の中に位置しており、豊富な天然ガスを産出します。南関東ガス田の鹹水（かんすい）には、海水の約2,000倍ものヨウ素が含まれており、天然ガスとともにヨウ素も採取されています。かつては東京湾岸でも天然ガスが採掘されていましたが、地盤沈下の問題から現在は停止しています。九十九里平野でも地盤沈下の影響はありますが、自治体と採掘業者の協定のもとで採掘事業が行われており、市町村営で都市ガスを供給する自治体も多いです。

ガス層が浅い場所では、地面の割れ目から自然にガスが噴出し、引火することもあります。2004年に発生した九十九里いわし博物館の爆発事故は、自然湧出したガスに引火したことが原因とされています。

また、九十九里平野では、砂鉄も産出されます。平野は海底が隆起してできたもので、砂鉄は比重が大きいため、飯岡付近に多く存在しています。かつては砂鉄の採掘も行われていましたが、現在は行われていません。

土地の活用

水系と漁港

九十九里平野には、栗山川、木戸川、作田川、真亀川、南白亀川、一宮川などの河川が流れています。また、栗山川湿地（多古光湿原）や成東・東金食虫植物群落などの湿地、雄蛇ヶ池、洞庭湖、小中池などのため池も点在しています。用水路としては、大利根用水、両総用水、房総導水路などが整備されています。漁港としては、飯岡漁港、栗山川漁港、片貝漁港などがあります。

特に栗山川中流域は、縄文時代のラグーンが湖沼群として残る地域で、貴重な湿地植物の生育地となっています。成東・東金食虫植物群落は、絶滅危惧種の食虫植物などの群生地として、天然記念物に指定されています。かつては、茂原市から長生村にかけて、植物学者の牧野富太郎博士が「植物の宝庫」と絶賛した茂原・八積湿原も存在していました。

九十九里平野南部では、用水不足を解消するために、雄蛇ヶ池、洞庭湖、小中池などが設けられましたが、根本的な解決には至りませんでした。その後、大利根用水、両総用水、房総導水路などの用水事業が実施され、安定した農業用水が供給されるようになりました。

納屋 集落

九十九里平野には、独特な集落形態である納屋集落が見られます。これは、海岸線に平行に、集落、耕作地、集落、耕作地と、帯状に集落と耕作地が交互に並ぶものです。もともと海岸近くで漁業を営んでいた人々が、漁具を保管する納屋を建て、そこに移り住んだことが始まりとされています。集落と集落の間の低地を耕作地として利用することで、独特な景観が形成されました。

北東部では、古墳時代以前から古村、奈良平安時代に岡集落、鎌倉時代以降に浜集落が形成されたとされていますが、南部では江戸時代に地引き網漁が盛んになり、多くの漁民が移住して浜辺の納屋集落の人口が増加しました。その後、不漁期になると、これらの漁民が背後の未墾地を開発して新田集落を形成し、農民化したといわれています。

産業

九十九里平野は、平坦な地形と水に恵まれたことから、古くから農業が盛んでした。奈良時代には藻原荘が開発され、平安時代には平高望が私営田を開発するなど、新田開発が積極的に行われていました。特に、栗山川／椿海水系の水に恵まれた中央部から北東側は稲作が盛んでした。

鎌倉時代以降も、湖沼群を狭める形で新田開発が進められましたが、その一方で、下流の村では水不足が深刻化しました。江戸時代になると、江戸の町の食糧事情から新田開発はさらに進められ、椿海の干拓のような大規模な開発も行われました。また、南部では紀州漁民の入植が盛んになり、地引き網漁によるイワシ漁が活況を呈しました。

明治維新後、機械揚繰網が登場すると、漁業は衰退し、農業への転換が進められました。しかし、水に恵まれず農業に適さなかった南部では、農業への転換は困難を伴いました。その後、大利根用水、両総用水などの用水事業が実施され、ようやく安定した農業用水が供給されるようになりました。

しかし、その頃には、日本人の食生活が変化し、米の消費量が減少していたため、減反政策が導入され、転作が奨励されました。九十九里平野では、都心に近いことを生かし、生鮮野菜の栽培や観光産業への転換が図られました。また、天然ガスが豊富なことから、茂原市周辺では鉱工業も盛んです。

特に茂原市では、真空管の製造に必要なメタンが採れることから、1936年には理研真空工業が工場を建設し、その後、日立製作所茂原工場としてブラウン管や液晶ディスプレイの製造が行われました。

交通

九十九里平野は平坦な地形であるため、交通網は海岸線に平行または垂直に整備されています。

平行な交通

鉄道は、総武本線、東金線、外房線が走り、主要道路としては、国道126号、128号が南北を結んでいます。また、千葉県道30号飯岡一宮線が浜集落を結んでいます。さらに、自転車道も整備されています。

垂直な交通

鉄道や国道沿いの商業中心地と、海岸の千葉県道30号飯岡一宮線の間を、複数の主要地方道が結んでいます。また、バス路線も、海岸に垂直方向に発達しており、各自治体のコミュニティバスも運行しています。

九十九里平野は、豊かな自然と資源、そして独特の文化が息づく地域です。その歴史や地理、産業、交通網について知ることで、この地の魅力をより深く理解できるでしょう。

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