成田空港問題円卓会議

成田空港問題 円卓会議とは

成田空港問題円卓会議（以下、円卓会議）は、成田空港（旧新東京国際空港）建設に伴う深刻な対立、いわゆる三里塚闘争を、対話によって解決を目指した会議です。かつて流血を伴う激しい抗争が繰り広げられた成田空港問題において、地域住民との共生に向けた合意形成を民主的な手続きで行った事例として、大規模公共事業における紛争解決のモデルケースとされています。

円卓会議の前身となった成田空港問題シンポジウムについても、その経緯と内容について記述します。

経緯

1966年、政府は新東京国際空港の建設地を千葉県成田市三里塚周辺と閣議決定しました。しかし、この決定は地元住民の合意を得ないまま強行されたため、農民を中心とする住民から激しい反発を招き、反対運動が組織されました。反対運動は新左翼も加わり、実力闘争へと発展。空港建設予定地では、代執行や反対派と警察官、建設関係者の間で死傷者を出す惨劇が頻発しました。

1978年に空港は開港したものの、反対運動は継続されました。水面下では対話による解決が模索され、右翼活動家を通じて反対同盟幹部と政府要人が接触し、覚書が締結されましたが、内容が事前に報道されたことで立ち消えとなりました。

その後、反対同盟の熱田派が再び対話による解決を目指す動きを見せます。1989年には運輸大臣と熱田派の間で公開質問状がやり取りされ、1990年には大臣が現地で直接対話を実施。同年、地域住民や有識者らによって「地域振興連絡協議会」（地連協）が設立され、公開討論によるシンポジウム開催が目指されました。

しかし、反対同盟の強硬派は「国との対話は裏切り行為」として地連協の活動を妨害。村山教授宅が放火されるなど、反対運動は依然として激しさを増していました。このような状況下で、熱田派はシンポジウム参加の条件として、強制収用申請の放棄、二期工事・B滑走路の白紙化、公正な議論を提示。政府はこれを受け入れ、1991年11月から1993年5月にかけて「成田空港問題シンポジウム」が開催されることとなりました。

シンポジウムの成果を受け、1993年9月からは「成田空港問題円卓会議」が開催されました。会議には、反対同盟（旧熱田派）、運輸省、空港公団、千葉県、地元自治体、民間代表が参加。円卓会議では、対立構造の解消、地域との共生、環境問題、地域振興策などについて議論が行われ、関係者間の合意形成が図られました。

円卓会議の終了後、政府からの謝罪もあり、二期工事への土地収用と集団移転に応じる農民・地主が現れました。反対同盟の一部も、行政訴訟を取り下げ、空港公団と土地売買契約を結び、長年の反対運動に終止符を打ちました。

隅谷調査団

地連協の依頼を受け、成田空港問題の原因究明と解決策の提示を目的に結成されたのが隅谷調査団です。宇沢弘文氏が作成した綱領に基づき、「社会正義にかなった解決」を目指し、リットン調査団を意識した命名がされました。

構成員は以下の通りです。

隅谷三喜男（団長）
高橋寿夫
宇沢弘文
山本雄二郎
河宮信郎

成田空港問題 シンポジウム

1991年11月から1993年5月まで、計15回開催されました。隅谷調査団が主宰し、反対同盟（旧熱田派）、運輸省、空港公団、千葉県が参加。シンポジウムでは、成田空港問題に関する様々な議論が交わされ、最終回では隅谷調査団が以下の提言を行いました。

1. 運輸省・空港公団による収用裁決申請の取下げ
2. 二期工事B・C滑走路建設計画の白紙化
3. 今後の成田空港問題の解決に向けた新たな場の設置

上記提言に基づき、「成田空港問題円卓会議」が開催されることとなりました。

成田空港問題 円卓会議

1993年9月から1994年10月にかけて、計12回開催されました。隅谷調査団が主催し、反対同盟（旧熱田派）、運輸省、空港公団、千葉県、地元自治体、民間代表が参加しました。

最終回では、隅谷調査団が以下の内容を発表しました。

対立構造の解消
共生懇談会（現：成田空港地域共生・共栄会議）の設置
地球的課題の実験村の設置
B滑走路用地取得における強制手段の禁止
横風用滑走路の環境影響調査の実施
航空機騒音対策と落下物対策の徹底
地域振興策の推進

隅谷団長は、「共生とは、立場の違うものが集まって一つの方向を見出すこと」と述べ、円卓会議を締めくくりました。

この円卓会議の背景には、政府担当者の継続的な対話と謝罪があったとされています。また、旧熱田派も、運輸省関係者の決断に対して敬意を表しました。

会議終了時には、かつて東峰十字路事件で機動隊の総括責任者であった亀井静香運輸大臣と、同事件の元被告である旧熱田派事務局長が握手を交わす場面もありました。

1994年12月には、拡大運営委員会が開催され、「成田空港地域共生委員会設置要綱」などが決定されました。

結論

成田空港問題円卓会議は、長年にわたる対立を対話によって解決に導いた画期的な事例です。この会議は、地域住民との共生を目指した公共事業における合意形成の重要性を教えてくれます。この経験は、他の大規模プロジェクトにおける紛争解決のモデルとなり、今後の地域社会と開発の調和に向けた重要な教訓となるでしょう。

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