押小路烏丸殿

押小路烏丸殿：二条家の邸宅から織田信忠終焉の地へ

押小路烏丸殿（おしこうじからすまどの）は、中世の京都、現在の京都市中京区二条殿町、御池之町、龍池町付近にあったとされる邸宅です。別名、二条殿とも呼ばれました。

建築と変遷

元々は陽明門院（三条天皇の皇女）の御所があった場所に、後鳥羽院の寵臣である藤原範光の邸宅が建てられました。承元3年（1209年）には、後鳥羽院の仙洞御所（三条坊門殿）となり、広大な池（後の龍躍池）と泉殿と呼ばれる離れが設けられました。その後、陰明門院（土御門天皇の中宮）の御所となりましたが、貞応元年（1222年）の火災で焼失。

正嘉元年（1257年）に後嵯峨院によって再建され、これが押小路烏丸殿の直接の祖となります。弘長2年（1262年）には、後嵯峨院が寵愛した西園寺成子に与えられ、彼女の生活の拠点となりました。

二条良実と押小路烏丸殿

二条家の祖である二条良実がここに居住し、「二条」の家名が成立したという説がありますが、確証はありません。二条良実の邸宅は、後の内裏となる二条富小路殿であり、押小路烏丸殿との関連性は低いと考えられています。

二条家の邸宅、そして北朝の成立

その後、二条家代々の邸宅となり、二条良基が拠点としました。建武3年（1336年）には、足利尊氏の工作により、光厳上皇と豊仁親王（後の光明天皇）が入り、光厳上皇の御所とされました。泉殿で親王の元服が行われ、寝殿で践祚の儀が執り行われ、ここに北朝が成立しました。次の崇光天皇の践祚もここで行われています。

応安元年（1368年）には、雷雨の日に池から白龍が昇天したという話があり、中巌円月がこの池を「龍躍池」と命名しました。当時の庭園の様子は『おもひままの日記』に記されており、島が点在する池や滝があったことが分かります。

衰退と消滅

二条家が居住した後、度重なる火災や災害に見舞われ、文明9年（1477年）には放火によって焼失しました。再建されたものの、二条家は没落し、戦国時代には荒廃しました。

織田信長が上洛を支持した二条晴良の時代、信長が押小路烏丸殿を気に入り、二条晴良を退去させて自身の居城（二条御新造）としました。その後、誠仁親王に御所として提供され、「二条新御所」と呼ばれるようになります。

天正10年（1582年）の本能寺の変では、織田信忠が立て籠もったため、明智光秀軍の襲撃を受けて焼失。跡地には一時、羽柴秀吉によって大雲院が創建されましたが、間もなく移転し、跡地は分割・転用されました。

その後

龍躍池も周辺の開発で縮小し、江戸時代にはわずかに残るのみとなりました。現在、室町通御池上る東側の会計事務所の裏庭に、二坪ほどの池の跡が残っています。門前には「二条殿御池跡」の石標が立っています。また、京都労働局局舎の改築の際に、池の州浜などが発掘されています。

二条殿にあった池は、現在の「御池通」の名の由来となりました。跡地の一角に建てられた龍池小学校は、京都国際マンガミュージアムとなっています。現在は地域名称として「龍池学区」の名が残るのみです。

押小路烏丸殿は、その栄華を極めた時代から、戦乱の舞台、そして都市開発の中で姿を変え、今ではわずかな痕跡を残すのみとなっています。しかし、その名は、歴史の中に確かに刻まれています。

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