控車

控車（ひかえしゃ）とは

控車とは、鉄道車両を連結する際に、特定の目的を果たすために連結される車両の総称です。狭義には、事業用車の一種であり、車両形式記号「ヒ」として区別される貨車を指します。しかし、広義には、連結作業の円滑化、異種連結器の接続、安全確保など、多岐にわたる目的で使用される車両が含まれます。

控車の主な種類と用途

控車は、その目的によって様々な種類があります。

1. 連結作業の円滑化

曲線区間での連結作業: カーブの多い貨物駅や臨港線などで、連結器の偏向を減らし、連結作業を容易にするために機関車に連結されます。
鉄道連絡船への航送: 鉄道連絡船への車両積み込みの際、船舶に機関車の重量をかけないように連結されます。
操重車の回送: 操重車の回送時に、クレーンブームを収納するために連結されます。主に長物車が使用されます。
長尺貨物の輸送: 貨車の車長よりも長い貨物を輸送する際や、車体が連結器よりも先に伸びている車両を運用する際に、張り出し分を補償するために、その前後に連結されます。これは本来、遊車（ゆうしゃ）と呼ばれるべきものです。
工場内での車両移動: 車両工場などで、建物内に車両を押し込む際に、機関車が建物内にまで入らなくて済むように、あるいは架線のない場所まで押し込むことが可能なように、機関車と車両の間に連結されます。

2. 特殊な状況下での使用

トロッコ列車: 荒天時やトロッコ車両に乗車できない区間において、乗客が待機するための旅客車両として使用されます。
動態保存機関車: 動態保存機関車や一部の私有機関車などで、回送時に付属品や添乗員の輸送のために連結される客貨車として使用されます。

3. 異種連結器の接続

連結器が異なる機関車と電車など、通常は連結できない車両同士を連結させる必要がある場合に、アダプタとして使用されます。この場合の控車は、貨車とは限りません。1960年代前半に双頭型両用連結器が実用化されるまでは、この目的で使用されることが多くありました。

山陽本線瀬野 - 八本松間（瀬野八）: 153系電車の補助機関車としてEF61形電気機関車を連結するために、自動連結器と密着連結器を装備したオヤ35形が使用されました。
鹿児島本線博多駅: 直流電化用の151系電車が交流電化区間の鹿児島本線博多駅に乗り入れる際、電源車を兼ねた控車（サヤ420形）を介して電気機関車に連結されました。
房総夏期臨時ダイヤ: 急行「汐風｣（153系電車）・準急「白浜｣（80系電車）が非電化区間に乗り入れる際に、電源車兼用としてクハ16形を控車として使用されました。
豊肥本線水前寺駅: 電車特急の「有明」が非電化時代の豊肥本線水前寺駅に乗り入れる際も、電源車兼用の控車（スハフ12形、ヨ8000形（28000番台））を介してディーゼル機関車に連結されました。
小海線: 臨時快速「葉っピーきよさと」「信州循環列車」に使用された169系電車が、非電化の小海線内でディーゼル機関車に牽引される際、電源車としてスハフ12形客車が使用されました。
オリエント急行: 1988年に来日した「オリエント急行」牽引用に、日本で使用される自動連結器と欧州で使用されるネジ式連結器を両方装備した車両が用意され、オニ23形とマニ50形が編成の前後に連結されました。
新幹線車両の甲種輸送: 新幹線車両の甲種輸送時には、新幹線用連結器を装備したシム1形を介して使われます。
海外の鉄道: 南米の鉄道では、連結器の規格が異なる機関車と車両を連結するために、アダプターとして控車が使用されています。また、アメリカのアムトラックでは、2階建て客車であるスーパーライナーと他の系列の客車を連結する際に、トランジションドームと呼ばれるアダプター車が使用されています。

4. 安全確保

危険物（火薬類や核物質）の輸送や混合列車において、安全のために機関車や客車などの有人車両と貨物の間の離隔距離を確保する目的で、機関車と客車、あるいは貨車と客車の間に連結される無人の車両として使用されます。

連結作業に使われる控車

貨物駅や操車場などで、貨車の解結作業時に使用されます。通常は側板を持たない二軸車が使用され、作業員の添乗を考慮して手すりが設けられる場合が多く、中には作業員待機のために屋根のかかった控室を持つものもあります。古い無蓋車を改造するケースが多く、車両形式記号は「控える」からとった「ヒ」が用いられます。

連絡船への車両積み込みに使用する控車

青函連絡船や宇高連絡船など、国鉄が運営していた航路では、貨車などを直接船舶に積み込む「車両航送」が行われていました。その際、機関車の重量が可動橋や船体にかかりすぎないように、貨車と機関車の間に空の貨車や専用の控車を数両連結するのが通例でした。

その他の例

JR東日本では、自社が保有する蒸気機関車を回送する際の係員添乗のために、スハフ12形を改造したオヤ12形を使用しています。
伊豆箱根鉄道大雄山線では、小田原駅構内の東海道線との連絡線に架線がないため、甲種鉄道車両輸送の際に数両の貨車が控車として連結されます。
JR西日本521系電車は、第三セクター鉄道所属の同型車両が吹田総合車両所での検査を行う際に、ATSの規格が異なるため、JR所属のE編成が先頭に連結して回送されます。

控車は、鉄道輸送の安全と効率を支える、縁の下の力持ちと言えるでしょう。

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