教化団体

教化団体：戦前日本の思想善導と社会改善

教化団体とは、戦前日本において、国民の道徳向上を目的とし、思想の善導と社会の改善を行うとされた団体の種類です。これらの団体は、道徳的・精神的に民衆を教化することを目指し、政府の庇護を受けながら、国民精神の形成に深く関わりました。

教化団体の成立と範囲

1924年に教化団体連合会が結成されましたが、その範囲は当初曖昧でした。連合会の創立趣意書では、「国民の教化を目的として社会改良に従事する」団体と抽象的に定義されていました。そのため、倫理的社会改良運動を直接の目的とする団体（宗教団体、研究団体、社会事業団体、青年団などを除く）という基準が設けられました。

1925年9月には、教化団体連合会で「国民道徳を基調として、思想を善導し、社会を改善するを直接の目的とする団体」と定義されました。これにより、宗教の宣布、学術研究、社会事業、会員限定の活動を主とする団体は除外されました。この定義は、1927年末に内務省社会局が全国の教化団体を調査する際にも採用されました。

教化団体の歴史

全国道徳団体連合大会

教化団体の組織化の端緒は、1915年11月に京都市で開催された全国道徳団体連合大会であると言われています。この大会は、大正天皇の即位礼を契機に開かれ、花田仲之助らの呼びかけにより58の団体が参加しました。大会の中心は、花田の主催する報徳会と一徳会であり、内務省の後援もありました。

民力涵養運動

1919年3月、内務省は民力涵養運動に着手し、第一次世界大戦後の社会不安を緩和することを目指しました。内務省は「戦後民力涵養に関する訓令」を発し、国民教化の徹底普及、祖先崇拝の推奨、関係諸団体との連携を盛り込みました。この運動は、教化団体の組織化に近い動きを見せました。

教化団体の所管を巡る省庁対立

1920年代、教化団体の所管を巡り、内務省と文部省が対立しました。内務省が教化団体への関与を進める一方で、文部省も教化団体連合協議会を開催するなど、働きかけを強めました。最終的に、1928年10月に教化団体に関する事務は文部省に移管されました。

教化団体連合会の結成と活動

1924年1月15日、教化団体連合会が結成されました。この連合会は、国家興隆のために国民精神の剛健を重視し、浮華放縦の風潮を正すことを目指しました。会長には一木喜徳郎（中央報徳会）が就任し、様々な教化団体が加盟しました。

1929年9月から12月にかけて教化総動員運動が全国で実施され、教化団体・青年団体・宗教団体などが担い手となり、一般国民を巻き込むことを意図していました。

戦時体制下の教化団体

1932年、国民更生運動が展開され、教化団体も協力しました。1937年には日中戦争が勃発し、政府は国民精神総動員を実施。中央教化団体連合会などがこれに加盟し、戦時体制への協力を強化しました。

1943年、政府は「戦時国民思想確立に関する基本方策要綱」を閣議決定し、教学の刷新や思想指導を強化しました。1945年1月には、教化団体・文化団体の協力体制として大日本教化報国会が結成されましたが、太平洋戦争の最終局面であり、統一的活動は実現しませんでした。

教化団体の例

日本弘道会： 1876年創立。道徳を高め国家の基礎を強固にすることを目的とする。
斯文会： 1880年設立。儒教を主として東亜の学術を闡明し、教育勅語の主旨を翼賛することを目的とする。
国柱会： 1880年創立。日蓮の指導に根拠し日本国体の精要を発揮し、道義で宇内を統一するという我が建国の主張を遵奉することを目的とする。
東京基督教青年会： 1880年創立。青少年の全人格を徳育・知育・体育により向上させ、国民としても国際人としても有為な人物たらしめることを目的とする。
皇典講究所： 1882年創設。皇国の国体を講明し道義を発揚し典故文献を研究し、これに必要な教育を施すことを目的とする。
全国神職会： 1892年創立。国体を闡明し、神社の隆盛、神職の向上を図ることを目的とする。
神宮奉斎会： 1872年創立。神宮の尊厳を欽仰し、皇祖の懿徳、皇上の聖勅を奉戴し、国典を考究し、国体を講明し、国礼を修行することを目的とする。
大東文化協会： 1923年設立。東亜固有の文化を振興することを目的とする。
大日本報徳社： 1875年創立。二宮尊徳の遺教により報徳の事業を行うことを目的とする。

これらの教化団体は、それぞれの理念に基づき、国民精神の形成と社会の改善に貢献しました。

大日本教化報国会の28団体

1945年1月に結成された大日本教化報国会は、中央教化団体連合会を母体とし、社会教育上重要とされた28団体を会員としました。

参考文献

国民精神総動員中央連盟『国民精神総動員中央連盟事業概要：昭和12年度』
社会局社会部『国民更生運動概況』
中央教化団体連合会『全国教化団体名鑑』
中央教化団体連合会『財団法人中央教化団体連合会要覧：昭和13年』
荻野富士夫『文部省の治安機能：思想統制から『教学錬成』へ』
山本悠三「大正期の教化団体史（その1）」『東京家政大学研究紀要』第43巻第1号、2003年、117-125頁。
山本悠三「大正期の教化団体史（その2）」『東京家政大学研究紀要』第44巻第1号、2004年、163-171頁。
山本悠三「大正期の教化団体史（その3）」『東京家政大学研究紀要』第45巻第1号、2005年、139-147頁。
文部省『学制百年史』

関連文献

尾川昌法「第一次大戦後の教化政策」『日本史研究』第94号、1967年。
尾川昌法「危機における日本帝国主義の思想一国家の思想支配について一」『日本史研究』第97号、1968年。
尾川昌法「治安維持法体制と思想支配一中央教化団体連合会の形成―」『日本史研究』第176号、1977年。
岡本正平「教化団体」『社会教育事典』第一法規、1971年。同著『社会教育義』南窓社、1978年に再録。
松村憲一ほか『愛国心教育の史的究明』、青木書店、1971年。
松村憲一ほか「近代日本の教化政策と「修養団」一蓮沼門三の修養概念―」、『社会科学討究』第53号、早稲田大学社会科学研究所、1973年。
宮坂広作『近代日本社会教育政策史』国土社、1966年。
山本恒夫『近代日本都市教化史研究』、黎明書房、1972年。
山本恒夫「大正・昭和初期の社会教育一国民教化綱の確立を中心に―」、山本ほか編『社会教育講座Ｉ 社会教育の理論と歴史』、第一法規、1979年。
山本恒夫「国民教化と庶民の対応」『歴史公論』第8巻第10号、雄山閣、1982年。
* 「社会教育行政の生成と展開」『日本近代教育百年史』第7巻第3章第2節、国立教育研究所、1974年、863-864頁。

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