文学界 (明治)

明治の文壇を彩った革新誌『文學界』：ロマン主義の奔流と若き才能の光芒

1893年（明治26年）1月から1898年（明治31年）1月まで、58冊が発行された『文學界』。明治期の文壇において、その存在感は特筆に値する。単なる文芸雑誌という枠を超え、当時若く才能溢れる文豪たちの揺るぎない情熱と革新的な試みが凝縮された、ロマン主義を色濃く反映した貴重な記録と言えるだろう。

若き俊英たちの集結：創刊と同人

『文學界』の創刊メンバーには、星野天知、戸川秋骨、島崎藤村、平田禿木といった錚々たる顔ぶれが名を連ねている。彼らの平均年齢は20代前半と若く、そのエネルギーに満ちた編集活動は、当時の文壇に大きな衝撃を与えた。その後、馬場孤蝶、上田敏らが加わり、北村透谷、樋口一葉、戸川残花、田山花袋、松岡国男、大野洒竹といった面々が作品を発表。特に、北村透谷の参加に関しては議論の余地があるものの、初期の重要な執筆者であったことは間違いない。

巌本善治と『女学雑誌』との関係：独立への道

『文學界』創刊の背景には、当時の女性教育に尽力した巌本善治の影響が深く関わっている。同人たちの多くはプロテスタントの洗礼を受けていたり、欧米文化に傾倒していたりした。彼らは巌本が主宰する明治女学校の講師を務め、『女学雑誌』にも寄稿していた。しかし、キリスト教的人間観に基づく女性の啓蒙という巌本の活動に対し、自身の芸術表現への忠実を追求する文学青年たちは次第に距離を置き始める。いわば、この相克が『文學界』創刊の重要な要因の一つとなった。なお、『女学雑誌』からの分家というよりは、同社の投稿雑誌『女学生』の後身とする説もある。実際、『文學界』は当初2号まで『女学雑誌文學界』という誌名で、4号までは女学雑誌社が発行元であった。

ロマン主義の旗手：既存勢力との対照

『文學界』は、尾崎紅葉の硯友社、坪内逍遥の早稲田派、森鷗外の千駄木派、幸田露伴の根岸派といった、当時勢力を誇っていた文学グループとは一線を画す存在だった。彼らは、ロマン主義を基調とした独自の文学世界を構築しようとした。創刊号の発行部数は2500部と、当時としては非常に多い部数が発行され、完売という成果を収めている。

三つの時期：発展と終焉

島崎藤村は自身の作品の中で、『文學界』の歴史を三つの時期に区分している。第1期は中世から近代初期の古典研究に焦点を当てた時期。北村透谷の「人生に相渉るとは何の謂ぞ」「内部生命論」、平田禿木の「吉田兼好」などが代表作と言える。第2期は、宗教と芸術の融和に苦悩しながらも、キリスト教的世界観からの脱却を目指し、ルネサンスへの関心を深めていった時期。上田敏の「美術の翫賞」、戸川秋骨の「文学復興期の事を想ふ」、樋口一葉の諸作品などがこの時期に発表された。そして第3期は、同人たちがそれぞれ独自の道を歩み始めた時期。島崎藤村の新体詩群、田山花袋、松岡国男らの作品が掲載された。しかし、この頃には同人たちの活動は次第に停滞し、1897年8月、11月、12月号が休刊。そして、1898年1月号をもって『文學界』は終刊を迎えた。

樋口一葉と『文學界』：新たな才能の発掘

樋口一葉の『文學界』への参加には、三宅花圃という人物が大きく関わっている。1893年3月、平田禿木が樋口一葉を訪ね、「雪の日」が3月号に掲載されたことがきっかけとなり、戸川秋骨、馬場孤蝶らとも親交を深めていった。しかし、樋口一葉の全作品が『文學界』に掲載されたわけではない。

掲載作品：多様な表現と才能

『文學界』には、多くの貴重な作品が掲載されている。上記に挙げた以外にも、それぞれの作家の多様な才能が反映された作品が数多く発表されており、明治期の文学史において重要な位置を占める雑誌と言えるだろう。

昭和期の『文學界』との関連性

1933年（昭和8年）に小林秀雄らを同人として創刊された『文學界』とは、誌名以外に直接的な繋がりはない。それぞれの雑誌が異なる時代背景の中で独自に発展したことを理解しておく必要がある。

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