文芸協会

文芸協会の概要

文芸協会は、坪内逍遥と島村抱月の協力のもとに設立された文化団体であり、新劇運動の重要な基盤を築きました。協会の活動は前期と後期の二段階に分かれ、演劇を中心に多彩な文化活動を展開しました。

前期文芸協会

1902年から1905年にかけて、早稲田大学の島村抱月は欧州への留学を経て新しい演劇の姿を模索していました。この経験を踏まえ、1906年に文芸協会が正式に結成されました。最初の会頭は政治家の大隈重信であり、坪内逍遥は顧問として関わりました。このとき、協会は「早稲田文学」を機関誌とし、文学や美術、演劇の革新を目指しましたが、実際には演劇が中心となることになります。

協会設立の年、早速歌舞伎座で坪内自身が作った『桐一葉』を上演し、翌年には本郷座にてシェイクスピアの『ハムレット』の抜粋上演が試みられました。しかし、これらの公演は素人の演芸会に留まったため、400円の負債を抱えて活動を停止しました。前期の代表的な公演として、1906年の第1回大会では『桐一葉』や『ベニスの商人』、次年の第2回大会では『大極殿』や『浦島』が上演されました。これらは夏目漱石の小説『三四郎』と関連していたと言われています。

後期文芸協会

後期は、抱月と逍遥の協議により、演劇に特化した方向性を持つ再出発が図られました。1909年には逍遥の自宅内に演劇研究所が設立され、若手俳優の育成が始まります。翌1910年には演劇団体として再編し、実際の公演には1911年5月の帝国劇場での『ハムレット』が新たな出発点となりました。この公演でオフィーリア役の松井須磨子が注目を浴び、特に松井はイプセンの『人形の家』で女性の新しいイメージを象徴する存在となりました。

しかし、松井と抱月の恋愛スキャンダルが知られると、団体は分裂の危機を迎え、抱月は辞任を余儀なくされ、松井も退所処分にされました。この結果、抱月は松井と共に新たに芸術座を結成しました。

文芸協会は1913年の『ジュリアス・シーザー』を最後にその活動を終えます。逍遥は演劇研究所の財産を整理し、協会の負債を解消しました。

主な公演とその意義

文芸協会の重要な公演には、1911年の『ハムレット』や『人形の家』、1912年の『故郷』（ズーダーマン原作）などが含まれます。これらの公演は新劇運動の先駆けとなり、特に小山内薫や市川左団次の自由劇場と共に、新しい演劇様式を確立しました。文芸協会は素人を役者にする試みを行ったのに対し、自由劇場は役者を素人にすることを目指していたため、両者の演劇論には大きな相違点がありました。

文芸協会出身の演劇人には、新国劇の創始者である澤田正二郎や、中国現代演劇の先駆者となった李叔同などが名を連ねており、後の演劇界に多大な影響を与えました。

結論

このように、文芸協会は日本の演劇界において重要な役割を果たし、新しい文化運動を推進しました。その影響は今なお多くの演劇人に受け継がれ、文芸協会の歩みは日本の演劇史に深く刻まれています。

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