斉己

斉己（せいき）

斉己は、中国唐代の著名な詩僧であり、その作品は禅の思想と詩が見事に融合していることで知られています。彼の俗姓は胡、名は得生といい、江南道潭州益陽県（現在の湖南省益陽市）の出身です。

生涯

咸通4年（863年）、斉己は益陽県の大潙山同度寺に近い農民の家庭に生まれました。幼少の頃より仏教に親しみ、仰山慧寂に師事して禅を学びました。その後、岳陽、長安、終南山、華山など各地を遊学し、見聞を広めました。晩年は山南東道荊州江陵県（現在の湖北省荊州市）の龍興寺に住し、享年75歳で入滅しました。

作品

斉己の詩は数が豊富で、その多くは禅の思想が反映されています。彼の作品は『全唐詩』に852首も収録されており、その数は白居易、杜甫、李白、元稹に次ぐ第5位という多さです。代表的な詩集として『白蓮集』があり、自然や人生、仏教的な悟りをテーマにした作品が多く含まれています。また、詩論書として『風騷旨要』を著し、詩の表現や技法について独自の理論を展開しました。

評価

斉己の詩は、同時代および後世の多くの人々から高く評価されています。唐代の徐東野は、斉己の才能と知識の広さを絶賛し、自身とは比較にならないと評しました。また、尚顔は、斉己の詩を「詩は儒者の禅、この格は実に仙の如し。古雅なること周頌の如く、清和なること舜の弦の甚だし」と称え、その詩風の清らかさと格調の高さを讃えました。

元代の辛文房は、斉己が形式にとらわれない自由な性格であり、琴と酒を愛したと述べています。また、古人の詩句を分類・整理した『玄機分別要覧』や、詩の規則について論じた『詩格』を著したことにも触れています。

明代の胡震亨は、斉己の詩風を「清潤平淡」と評しつつも、その中に「高遠冷峭」な趣があると指摘しました。また、都官の点化によって『白蓮集』が優れた作品となったと述べています。

清代の呉喬は、斉己の詩「剣客」を傑作として高く評価し、その詩思の深さを晩唐の詩人ならではのものと評しました。薛雪は、斉己が著した詩論書『風騷旨格』の内容を評価しつつも、一部の表現に難があることを指摘しています。

紀曉嵐は、『四庫全書総目提要』において、斉己を唐代の詩僧の中で第一と評価しました。また、彼の五言律詩は武功一派のスタイルを受け継ぎつつも、独自の風格があると指摘し、「剣客」「聴琴」「祝融峰」などの作品を例に挙げています。さらに、絶句「庚午年十五夜対月」を取り上げ、故郷を思う心情が他の僧侶の詩には見られない優れた点であると述べました。

斉己の詩は、禅の思想と豊かな感情が織りなす独特な世界観を持ち、多くの人々に感動と示唆を与え続けています。

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