新城新蔵

新城 新蔵（しんじょう しんぞう）は、日本の天文学者であり、中国学者としても名を馳せた人物です。1873年（明治6年）に生まれ、1938年（昭和13年）に亡くなるまで、京都帝国大学の第8代総長や名誉教授を務めるなど、日本の学術界を牽引しました。彼の専門は宇宙物理学に加え、中国古代の暦法や天文学史に及び、この分野における戦前の第一人者と評価されています。

新城は福島県会津若松の造り酒屋の六男として生を受けました。郷里で基礎教育を受けた後、第二高等中学校を経て、1895年には帝国大学理科大学物理学科を卒業。そのまま大学院に進み、1897年には陸軍砲工学校の教授となりました。

1900年には京都帝国大学理工科の助教授に転じ、その後ドイツのゲッティンゲン大学へ留学して天文学を深く学びました。帰国後、京大の教授に昇進。留学中の1906年（明治39年）には、ハンガリーで開催された万国測地学協会の総会に陪席するなど、国際的な場にも顔を見せています。

彼の研究は多岐にわたりました。元々は物理学者として力学や地磁気を研究していましたが、ドイツ留学を契機に宇宙進化論を中心とした宇宙物理学へと関心を深めました。また、京都帝国大学に赴任後、京大における中国学（支那学）研究を主導していた狩野直喜や内藤虎次郎といった著名な研究者と親交を結んだことで、中国の古典に触れる機会が増え、これが中国天文学史や、古代史の年代学（天文考古学）の研究に向かう大きな転機となりました。これらの研究成果は、1928年に刊行された彼の代表作ともいえる『東洋天文学史研究』にまとめられ、この分野の研究において重要な位置を占めています（同書の序文は内藤虎次郎が執筆）。

新城はまた、徹底した科学的合理主義者としての側面も持っていました。著書『迷信』（1925年）では、古くから受け継がれてきた暦に関する迷信などを、科学的な視点から厳しく批判し、その払拭を訴えました。

京都帝国大学においては、1918年に宇宙物理学教室を設立するなど、新しい学問分野の発展に貢献しました。理学部長を経て、1929年には京都帝国大学の総長に就任し、大学の運営にも手腕を発揮しました。彼の中国科学史研究は、戦後の藪内清や山田慶児といった後進の研究者たちによって引き継がれ、京大がこの分野の研究拠点となる上で重要な役割を果たしました。

新城の門下からは、娘婿であり、保守派の論客としても知られた天文学者の荒木俊馬や、上田穣など、多くの優れた研究者が育ちました。また、彼は郷里である会津への愛着も深く、松平保男が中心となって組織された会津会に参加していました。

彼のキャリアにおける特筆すべき点は、1935年に上海に設立された上海自然科学研究所の第2代所長に就任したことです。当時、日中関係は悪化しており、両国間の学術交流を維持することは困難な状況でした。新城はこのような困難な環境下でも、日中の研究者が共に研究できる環境を守るため、尽力しました。彼は研究者間の交流会や市民向けの講演会を企画し、日本人所員には中国語を教える講習会を開く一方、自ら中国人職員に日本語を教えることもありました。新城のリベラルな考え方により、所内には比較的自由な雰囲気が保たれ、日本国内で思想上の理由から職を得ることが難しかった柘植秀臣や小宮義孝といった研究者も、嘱託として研究所に迎え入れられることがありました。

しかし、1937年に日中戦争が勃発すると、戦禍から貴重な文化財を守るため、新城は各地を奔走しました。この激務が彼の体に大きな負担をかけ、1938年8月1日、視察先の南京で急逝しました。享年64歳でした。彼の死後も、上海自然科学研究所の志ある所員たちによって文化財の保護活動は続けられ、最終的に重慶の国民政府に引き渡されましたが、後任の所長の下で研究所は戦時体制に組み込まれていくことになります。

主な著書として、『宇宙進化論』（1916年）、『天文大観』（1919年）、『迷信』（1925年）、そして『東洋天文学史研究』（1928年）などが挙げられます。

新城新蔵は、物理学、天文学、中国学という幅広い分野で卓越した業績を残した稀有な学者です。教育者として後進を育成し、京都帝国大学の発展に貢献するとともに、激動の時代にあって国際的な学術交流の維持にも尽力しました。その学際的な研究姿勢と科学的合理主義は、後世の研究者に大きな影響を与え、特に中国天文学史・科学史研究における彼の先駆的な功績は、今日でも高く評価されています。

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