新宿騒乱

新宿騒擾事件

「新宿騒乱」とも通称される新宿騒擾事件は、1968年（昭和43年）10月21日に東京都新宿区で発生した、過激な行動をとる新左翼勢力が引き起こした大規模な騒乱事件です。この事件は、ベトナム戦争への反対運動が高まる国際反戦デーのさなかに発生し、首都圏の主要ターミナル駅である新宿駅を舞台に、甚大な被害と混乱をもたらしました。

背景と経緯

事件の背景には、当時の緊迫した国際情勢、特にベトナム戦争がありました。この戦争に反対する動きは世界的に広がり、「国際反戦デー」が設定されていました。日本でも、これに呼応する形で反戦運動が盛んに行われていましたが、その中でも新左翼各派は、既存の運動とは一線を画した過激な闘争を展開していました。

特に、前年の1967年8月には、新宿駅構内で米軍のジェット燃料タンク車が爆発炎上する事故が発生しており、新左翼勢力はこの事故を、米軍の軍事輸送を象徴するものとして捉え、「新宿米タン闘争」と銘打って新宿駅での暴力的な闘争を計画していました。彼らは騒擾罪（現在の騒乱罪）の適用も辞さない覚悟で、運動を扇動していたと言われています。

実は、新宿駅での騒乱はこれが初めてではありませんでした。同年の10月8日にも、新左翼各派は羽田闘争一周年集会後、新宿駅構内に侵入して燃料タンク列車の運行を妨害し、144人もの逮捕者を出していました。今回の騒擾は、それに続く二度目のものとなります。

事件前日の10月20日には、新宿駅東口でベ平連や国際文化会議などが主催する合法的な街頭講演会が開かれ、作家の小田実氏らが参加する順法的な抗議活動が行われていました。しかし、翌日の新左翼勢力は、全く異なる非合法的な行動を選択することになります。

事件当日の詳細

1968年10月21日、国際反戦デー当日、中核派、ML派、第四インターといった新左翼各派は、明治公園や日比谷野外音楽堂で集会を開催した後、角材などで武装しながら、次々と約2,000人の活動家が新宿駅へと向かい集結しました。駅周辺に展開していた機動隊との間で、各地で激しい衝突が発生しました。

午後9時頃、デモ隊は新宿駅東口の広場に集まり、改めて決起集会を開きました。その後、彼らは再度、新宿駅構内へと強行突入しました。構内に侵入したデモ隊は、停車中の電車のシートを剥がして燃やし、それを薪代わりにするなどして南口付近を炎上させました。また、駅構内の停車中の列車や信号機など、様々な施設に向けて投石を繰り返し、破壊活動を行いました。

この混乱をさらに拡大させたのが、現場に集まった約2万人もの野次馬の存在でした。デモ隊を遥かに上回る彼らの存在が、騒乱を一層制御困難なものにした側面があります。

結果として、新宿駅構内は壊滅的な被害を受け、国鉄（現JR）をはじめとする新宿駅に接続する主要な交通機能は完全に麻痺状態に陥りました。これにより、通勤や通学などで新宿駅を利用する実に約150万人の人々が、この事件により多大な影響を受けました。

警察の対応と影響

事態を重く見た警視庁公安部は、事件発生後の10月22日午前0時15分、騒擾罪（現在の騒乱罪）の適用を決定しました。これにより、警察は一斉に活動家らの逮捕に乗り出し、最終的に743人もの人々が逮捕されました。交通機能の麻痺は深刻で、列車の運転再開は翌日の午前10時まで見合わせられることとなりました。

この事件は、当時の新左翼による過激な闘争の一端を示すものであり、翌年の国際反戦デーにおいても、数百人の学生が新宿駅構内に突入し、破壊活動を行う類似の事件が発生しています。

裁判における論点

事件後の裁判過程において、1969年には東京地方裁判所にて、東京地方検察庁がNHKやTBSが放映したテレビニュースの録画映像を証拠として提出しました。これに対し、両局の報道局長は同年10月24日、報道の自由を脅かす行為であるとして、地検に対し証拠としての提出を取り下げるよう申し入れを行いました。しかし、対応にあたった検事正は「報道の自由を侵害するものではない」として、この申し入れを認めませんでした。これは、報道機関が取材した映像素材の扱いについて、社会的な議論を呼ぶ一幕となりました。

付随するエピソード

著名な声優である若本規夫氏は、当時警察官として勤務しており、この事件に際して人手不足を補うために編成された「特別機動予備隊」の一員として動員され、最前線で治安維持にあたっていました。若本氏は、この過酷な現場での経験を通じて、改めて警察官という職務が自身には向いていないと感じ、約1年後に警察を辞める決断をしたと後に語っています。

まとめ

新宿騒擾事件は、反戦運動の過激化が引き起こした都市型テロリズムとも言える事件であり、その暴力性と破壊行為は多くの市民に恐怖と不便をもたらしました。事件は、当時の日本の社会情勢、特に学生運動や新左翼の過激な動きを象徴する出来事として歴史に刻まれています。また、裁判での報道映像問題を提起した点でも、重要な事例となっています。

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