新潟デザイナー誘拐殺人事件

新潟デザイナー誘拐殺人事件は、1965年 1月13日に新潟県で発生した、身代金目的の誘拐殺人事件です。当時24歳だった新潟市在住の女性デザイナーが誘拐され、その後殺害されるという痛ましい事件でした。

犯人の男Y（当時24歳）は、1971年に最高裁で死刑が確定しましたが、1977年 5月21日に東京拘置所で自殺しました。享年36歳。

事件の概要

1965年 1月13日午後8時30分頃、新潟市のガソリンスタンド経営者の自宅に、警察官を名乗る人物から「車の停車場所が迷惑になっている」という電話がかかってきました。電話を受けた家の三女であるデザイナーの女性は、現場に向かいましたが、これは犯人の罠でした。

午後9時40分頃、家族のもとに「娘を預かっている。明日午前10時までに700万円を用意しろ」という脅迫電話があり、誘拐事件が発覚しました。

翌14日午前11時50分、犯人から「午後1時までに国鉄新潟駅の待合室に金を持ってこい」という電話がありました。家族は10万円と、新聞紙で札束を偽造した包みを持って駅に向かいましたが、犯人は現れませんでした。しかし、新潟駅の案内所に家族宛の呼び出し電話があり、午後1時27分発の柏崎行き越後線に乗り、赤い旗のある場所で金を投げるように指示されました。この手口は、黒澤明監督の映画『天国と地獄』の身代金受け渡し方法を模倣したものでした。後にYは、『天国と地獄』からヒントを得て犯行計画を立てたと自供しています。

家族は指示通り列車に乗りましたが、赤い旗は新潟駅から約1km離れた信濃川橋梁の東詰手前にあり、現金を投げることができませんでした。

逮捕

一見すると綿密な計画に見えましたが、犯人の短気な性格から逮捕につながりました。現金受け渡しに失敗した14日午後5時27分、被害者の絞殺遺体が新潟市関屋海岸の松林の中で発見されました。

司法解剖の結果、被害者は13日の午後9時から14日の午前9時までの間に殺害されたことが判明しました。つまり、犯人は身代金を受け取ろうとした時点で、既に被害者を殺害していたことになります。

現場は積雪でぬかるんでおり、タイヤ痕や足跡が採取されました。不審な車両の目撃証言から、捜査範囲は絞り込まれていきました。当初、トヨペット、ダットサン、いすゞ、プリンスの4種類の車の情報がありましたが、タイヤ跡、チェーンの長さ、車軸の幅から、プリンスとトヨペットの中型車に特定されました。さらに、1月18日に誘拐現場近くを車で通りかかった自動車会社従業員の証言から、黒色のプリンス・グロリア・デラックスに捜査範囲は絞られました。そして、カシミヤ・グレーのプリンス・グロリアが自動車修理工場で発見され、その工場の経営者の息子であるYが被疑者として逮捕されました。被害者は前年8月に犯人から中古のダットサン・ブルーバードを購入していました。

Yは当時新潟大学付属病院に入院しており、言語障害と半身不随を装って筆談で取り調べに応じていましたが、逮捕から2日後の21日に、被害者を新潟市立寄居中学校前で車に乗せ、13日に絞殺し、14日朝に死体遺棄を行ったことを自供しました。検査の結果、異常はなく、逮捕から4日後の23日午後3時30分から口頭で自供を始め、単独犯行を認めました。犯行動機は、前年の新潟地震で工場が大きな被害を受け、父親が病気で経営不振となったことから、金目当てで犯行に及んだと供述しました。

1月25日、Yが犯行時に使用したゴム長靴が、西蒲原郡黒埼村（現在の新潟市西区）の国道8号脇の水田で発見されました。

裁判とその後

2月11日、Yは身代金目的誘拐、同要求、殺人、死体遺棄罪で起訴されました。3月22日に行われた初公判で、Yは罪状認否を拒否しました。4月30日の第2回公判では、共犯者が3人おり、殺害したのは自分ではないと主張しました。弁護側は、脅迫電話に女性の声が入っていたこと、事件当時Yの所有車に複数の人物が乗っていたという目撃証言、自白内容と遺体の痕跡との食い違いなどを理由に、事件の冤罪性を主張しました。Yは、単独犯ではなく身元のわからない3人組に強制されて犯行に加わったと主張し、起訴事実のうち死体遺棄のみを認めました。

12月21日の論告求刑公判で、検察はYに死刑を求刑しました。第一審の新潟地裁は1966年2月28日、求刑通りYに死刑判決を言い渡しました。Yは控訴しましたが、東京高等裁判所は1968年 12月19日にYの控訴を棄却しました。Yは上告しましたが、最高裁判所は1971年 5月11日に上告を棄却し、Yの死刑が確定しました。

Yは死刑囚として東京拘置所に収監され、法務大臣の死刑執行命令を待つことになりました。

1977年 5月21日、Yは拘置所内で自殺しました。朝食中にガラス窓を割り、その破片で首の頚動脈を切断し、出血多量で死亡しました。同年3月4日に新潟地裁に請求されていた再審の証人調べが開始された直後の出来事でした。Yは遺書を残しませんでした。

この事件は、高額な身代金要求や、映画を模倣した受け渡し方法など、当時の社会に大きな衝撃を与えました。また、戦後日本で初めて、成人が犠牲となった身代金目的の誘拐殺人事件としても記録されています。

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