新鹿町

新鹿町（あたしかちょう）

三重県熊野市の東部に位置する新鹿町は、新鹿湾に面した自然豊かな地域です。歴史的には、木材の積み出し港として発展し、近年では新鹿海水浴場を中心とした観光地として知られています。また、俳諧師の三浦樗良や作家の中上健次が滞在し、作品の舞台ともなった場所としても有名です。

地理

新鹿町の中心集落は、新鹿湾の奥に位置し、里川と湊川の流域に開けています。集落内を紀勢本線が縦断し、新鹿湾岸には国道311号線が通っています。集落は、里川の北側の湊と南側の里に分かれ、それぞれ橋間、甫本という集落も存在します。

主な地形

山: 龍門山、大蛇峰
川: 里川、湊川
滝: 龍門滝
湾: 新鹿湾
谷: 扇子谷、逢神谷、オバ谷、ガマ谷、久六谷、スクノ谷、モチロ谷、ヤケン谷

隣接地域

北は尾鷲市曽根町、東は二木島町・遊木町、南は波田須町、西は大泊町・飛鳥町小阪・飛鳥町大又・飛鳥町小又と隣接しています。また、電力供給は熊野市の多くの地域とは異なり、中部電力尾鷲営業所の管轄です。

新鹿湾

新鹿湾は、遊木町の箕越埼と磯崎町のカイタロー鼻を結んだ線で囲まれる水域で、面積は約5.43平方キロメートル、最大水深は47メートルです。湾の北側は志摩半島まで続くリアス式海岸、南側は七里御浜の単調な海岸となっています。湾内の水質は三重県内で最も良好であり、里川と湊川から供給される石英や長石が新鹿海水浴場の砂浜を形成しています。また、河口付近ではアユ、ウナギ、ハゼ、ハヤ、フグ、ボラ、ヤマトテナガエビなど多様な生物が生息しています。

津波の歴史

新鹿町は南海トラフの近くに位置するため、過去に何度も地震と津波の被害を受けてきました。宝永地震（1707年）では、記録が失われるほどの被害を受け、安政東海地震（1854年）では、湊集落の石垣に「津波留」の文字が刻まれ、昭和東南海地震（1944年）では多くの犠牲者が出ています。今後、南海トラフ巨大地震が発生した場合、最大540人の避難者が出ると推定されており、避難所運営マニュアルの作成が進められています。

気候

新鹿町にはアメダスの「熊野新鹿観測所」があり、2001年12月18日から観測が開始されています。

歴史

近世まで

縄文時代から人々が居住していたことが遺跡から判明しており、その後、阿須賀神社の神領地や堀内氏の所領となりました。戦国時代には堀内氏と北畠氏の間で激しい戦闘が繰り広げられました。江戸時代には紀州藩の配下となり、農村として発展しました。農閑期には林業や漁業も行われ、特に林業では、紀州藩が積極的に奨励し、木材や炭の出荷地として栄えました。

近代以降

明治維新後、新鹿学校や新鹿郵便局が開設され、町村制の施行により新鹿村が発足しました。その後、新鹿銀行や新鹿実業補習学校も設立されました。陸上交通が不便であったため、赤須賀船や団平船が定期的に来航し、生活物資の輸送や木材の積み出しが行われました。1954年には周辺町村と合併し熊野市となり、新鹿は同市の町名である新鹿町となりました。1956年には紀勢本線が開通し、新鹿駅が終着駅となり、観光地としての開発も進められました。1980年には作家の中上健次が家族で新鹿町に移住し、半年ほど生活しました。

近年の動向

1960年代には2,489人だった人口は、2000年には1,055人まで減少しましたが、2003年には若い町民が新鹿青年団を復活させ、町おこし活動を行っています。2006年には新鹿海水浴場が環境省の快水浴場百選に選定され、2013年には熊野尾鷲道路が開通し、熊野新鹿ICが設置されました。

地名の由来

新鹿の地名の由来には諸説あります。

荒坂説: 熊野古道の「荒坂」が転訛した。
渡洲処説: 白い砂浜の上の地を意味する「渡洲処」に由来する。
忌部氏説: 古代の氏族、忌部氏の居住地にちなむ。
新敷説: 新しい漁場を意味する「新敷」が転訛した。
伝承説: 新しい鹿が多く生まれたことから「新鹿」と名付けられた。

世帯数と人口

新鹿町の世帯数と人口は減少傾向にあり、特に1995年以降の減少が顕著です。1960年代には多くの人口を抱えていましたが、現在では少子高齢化が進んでいます。

学区

新鹿小学校と新鹿中学校は同じ敷地内にあり、小中一貫教育が行われています。しかし、児童・生徒数は減少傾向にあります。

産業

新鹿町は農山村地域であり、稲作を中心に、春トマト、キュウリ、レタス、ウンシュウミカンなどが栽培されています。特産品としては新姫という柑橘類があります。林業は海岸部特有の密植と丁寧な間伐が特徴です。漁業は沿岸漁業が中心で、刺網と釣りが主な漁法です。

新鹿漁港

新鹿漁港は、1953年に第1種漁港に指定されました。かつては商港として栄え、木材の積み出しが行われていました。現在は、漁獲物は主に遊木町の施設で競りにかけられています。

第二・第三次産業

観光業が主要な産業の一つですが、近年は苦戦しています。民宿や渡船業を営む住民も多く、夏季には海の家を兼業する人もいます。

文化

中上家と新鹿

作家の中上健次とその家族は、1980年に新鹿町で生活し、その経験をもとに作品を執筆しました。娘の中上紀も新鹿での生活について著書で語っています。中上健次の足跡を辿って新鹿町を訪れる人もいます。

凪のあすから 聖地巡礼

テレビアニメ『凪のあすから』のモデル地の一つとして知られ、多くのファンが聖地巡礼に訪れています。

坂と伝説

新鹿町には、伝説の残る坂が多くあります。因果坂、逢神坂、おきわ坂など、それぞれに歴史や物語があります。

交通

鉄道

JR紀勢本線 新鹿駅

バス

熊野市自主運行バス

乗合タクシー

熊野市による「海岸部乗合タクシー」

道路

E42 熊野尾鷲道路 熊野新鹿インターチェンジ
国道311号
三重県道737号新鹿佐渡線（八丁坂）

施設

史跡

岩本城跡
徳司神社
竜門山大仙寺

その他

日本郵便 熊野郵便局（集配局）

まとめ

新鹿町は、歴史と自然、文化が深く結びついた魅力的な町です。美しい海岸線や山々に囲まれ、豊かな自然の中で生活することができます。また、過去の津波被害や人口減少といった課題を抱えながらも、地域住民の活動により活性化を図っています。新鹿町は、訪れる人々に安らぎと感動を与える場所です。

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