日光社参

日光社参（にっこうしゃさん）とは

日光社参とは、一般的には日光東照宮への参拝を指しますが、特に江戸時代に徳川将軍家が行った一連の行事を指します。これは、江戸幕府を開いた徳川家康（東照大権現）を祀る日光東照宮へ、将軍自らが参拝する重要な儀式でした。

概要

江戸時代を通じて、将軍や大御所、大納言（将軍嫡子）が合計19回の日光社参を実施しました。参拝した将軍は、2代秀忠（4回）、3代家光（10回）、4代家綱（2回）、8代吉宗（1回）、10代家治（1回）、12代家慶（1回）の6名です。特に3代将軍家光は10回と最多で、社参は家綱の時代までに集中して行われました。

将軍の日光社参には、大名や旗本をはじめ、莫大な数の人馬が供奉しました。その規模は非常に大きく、例えば、10代将軍家治の社参では、行列の先頭が日光に到着した時、最後尾はまだ江戸にいたという逸話が残っているほどです。このような大規模な社参は、徳川家の権威を広く示す絶好の機会でしたが、同時に莫大な経費を必要とし、幕府財政に大きな負担をかけました。また、近隣の農村にも人馬徴発が課せられ、農繁期と重なることが多かったため、農民たちの大きな負担にもなっていました。

行程

多くの場合、徳川家康の命日である4月17日に合わせて社参が実施されました。主な行程は以下の通りです。

1. 江戸城を出発し、日光御成道を通り、初日は岩槻城に宿泊。
2. 2日目は、幸手宿近くで日光街道に入り、古河城に宿泊。
3. 3日目は、宇都宮城に宿泊。
4. 4日目に日光に到着し、数日間滞在。

復路は往路を逆に戻り、合計8泊9日の行程でした。家綱の時代までは、復路で今市宿から壬生通りに入り、宇都宮城の代わりに壬生城に宿泊することもありました。

日光社参のコース

日光社参には、主に以下の3つのコースが使われていたとされています。

1. 基本コース: 日光御成道を通り、幸手で日光街道に入り、日光に至る往復ルート。最も多く使われたコースです。
2. 復路変更コース: 往路は基本コースと同じですが、復路は今市より壬生道に入り、鹿沼、壬生を経て小山で日光街道に戻るルートです。
3. 特殊コース: 慶安2年（1649年）の大納言家綱の社参でのみ使われたコースで、日光街道を千住から越ヶ谷に進み、岩槻に宿泊。その後は基本コースと同じ経路を辿ります。

年表

元和3年（1617年）3月：日光東照宮竣工。4月、将軍徳川秀忠が最初の日光社参。
元和5年（1619年）10月：将軍秀忠が社参。
元和8年（1622年）4月：将軍秀忠が社参。
元和9年（1623年）4月：大納言徳川家光が社参。
寛永2年（1625年）7月：将軍家光が社参。
寛永5年（1628年）4月：大御所秀忠、将軍家光が社参。
寛永6年（1629年）4月：将軍家光が社参。
寛永9年（1632年）4月：将軍家光が社参（服喪により遥拝）。
寛永11年（1634年）9月：将軍家光が社参。
寛永13年（1636年）4月：将軍家光が社参。
寛永17年（1640年）4月：将軍家光が社参。
寛永19年（1642年）4月：将軍家光が社参。
慶安元年（1648年）4月：将軍家光が社参。
慶安2年（1649年）4月：大納言徳川家綱が社参。
寛文3年（1663年）4月：将軍家綱が社参。
享保13年（1728年）4月：将軍徳川吉宗が社参。
安永5年（1776年）4月：将軍徳川家治が社参。
天保14年（1843年）4月：将軍徳川家慶が最後の日光社参。

まとめ

日光社参は、徳川将軍家の権威を象徴する重要な行事でしたが、莫大な費用と農民への負担も伴いました。特に、初期の将軍による社参が多かったものの、幕府の財政状況が悪化するにつれて、その頻度は減少していきました。この行事は、江戸時代の社会構造や政治状況を理解する上で、非常に重要な要素と言えるでしょう。

参考文献

阿部昭 『街道の日本史15 日光道中と那須野ヶ原』 吉川弘文館、2002年
古河市史編さん委員会 編 『古河市史 通史編』 古河市、1988年
竹内 誠 編 『徳川幕府事典』 東京堂出版、2003年
中島義一「徳川将軍家御殿の歴史地理的考察（第3報）-日光社参の場合」『駒澤地理』15 / 駒澤大学文学部地理学教室、駒澤大学総合教育研究部自然科学部門 編、1979年、55-56頁
日光街道ルネッサンス21推進委員会 編 『栃木の日光街道』 下野新聞社、2005年
日光市公式ホームページ 旧日光市の歴史年表

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